「目ざせ、未来のパラリンピアン!」Text 矢内由美子

  矢内由美子=文・写真

■選手発掘イベントを初め開催

2016年リオデジャネイロ大会、2018年平昌(ピョンチャン)冬季大会、2020年東京大会などで活躍する未来のパラリンピアンを発掘しようと、日本障がい者スポーツ協会と日本パラリンピック委員会(JPC)が、「めざせパラリンピック! 可能性にチャレンジ2014」と題したイベントを東京と神戸市の2会場で8月下旬に開催した。

日本で、障害者スポーツの本格的な選手発掘イベントが開催されたのは、今回が初めて。昨年9月に2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定したことを受けて関心が高まり、企画が実現したもので、8月23日の会場となった東京都北区の東京都障害者総合スポーツセンターには、7歳から25歳までの男女約80人が集まり、ゴールボール、車いすフェンシング、柔道、陸上、水泳など15競技から好みの競技を選んで実技体験を行ったり、デモンストレーションを見学したり、思い思いの時間を過ごした。

■五輪出場のパラリンピアンによる直接指導も

参加者から特に人気が高かったのは、国枝慎吾(ユニクロ)が活躍する車いすテニスや、オリンピックと同じ弓矢を使って競われるアーチェリーだ。車いすテニスでは、競技の基本となる車いすの操作が抜群にうまい子どもがいるなど、主催者側が思わずうなるような才能を見せる参加者も。また、アーチェリーではパラリンピアンが用具の使い方を一から説明し、弓を引いて矢を射るところまで指導した(※アーチェリーでは、イタリアで車いすの選手がオリンピックに出た例もある)。

ほかの競技でも、パラリンピアンが大勢駆けつけ、参加者と触れあった。陸上では男子走り高跳びでパラリンピック4大会連続入賞を果たしている義足のハイジャンパー、鈴木徹選手(プーマジャパン所属)の指導で、義足の子ども達が陸上トラックを笑顔で走り抜けた。体育館内の一角に畳を敷いて行った柔道では、ロンドンパラリンピックで日本人金メダル第1号となった柔道男子100kg超級の正木健人選手(視覚障害)と組み合って、男子児童らが奮闘した。

2012年ロンドン大会で日本女子が金メダルを獲得したゴールボールでは、視覚障害の中学生らが3対3に分かれてゲームを体験。脳性麻痺者7人制サッカーではパス、ドリブルやシュートなど基本技術を教わりながら、子どもたちが歓声をあげながらボールを蹴った。会場全体が活況を呈していた。

JPC強化委員の大槻洋也氏によると、今回は主催者団体の公式HPやメディア各社、養護学校、普通学校、フェイスブックなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などを通じてイベントの告知を行ったが、「想像していた以上の反響があった」という。

参加者の人数そのものが定員を上回ったのみならず、付き添いの保護者も多く、会場内は大盛況。メディアの関心も高く、新聞、テレビなど約40人の報道関係者が熱心に取材していた。大槻氏は「今回の参加者は競技経験者と未経験者が半分ずつで、将来パラリンピックに出場する可能性を感じさせる参加者もいた。選手発掘という面での成果はもちろんある。そして、広報的な意味合いでは期待していた以上だった。非常に有意義だった」と話した。

■「世界を変えるヒーロー」の出現に期待

ここ数年、障害者スポーツを取り巻く環境は徐々に変化している。ロンドンオリンピック・パラリンピックを1年後に控えた2011年6月に「スポーツ基本法」が成立。50年も前の1961年に制定された「スポーツ振興法」が全面改正されたもので、健常者だけではなく障害者にも目を向けていくという方針が出されたのは意義のあることだ。

今年4月には、障害者スポーツの所管が従来の厚生労働省から、健常者のオリンピックと同じ文部科学省へと移管され、同省のスポーツ・青少年局内にトップ競技者を支援する「オリンピック・パラリンピック室」と、一般愛好家を対象とする「障害者スポーツ振興室」が設置された。

また、下村博文文科相は、オリンピックとパラリンピックのメダル報奨金の額に差がある(金メダルで五輪300万円、パラリンピック100万円)ことについて、将来的に同じ金額となるように、政府が世論作りを支援していくという考えを明らかにしている。

東京で行われた選手発掘イベントでは、陸上走り高跳びの鈴木徹選手、オリンピアンの為末大氏(陸上)、パラリンピアンの河合純一氏(水泳、視覚障害)、京谷和幸氏(車いすバスケットボール)の講演も行われ、参加者や保護者が熱心に耳を傾けた。

為末氏は「カール・ルイスは『ヒーローは世界を変えられる』と言った。東京パラリンピックで、世界を変えるヒーローが出現することを期待している」と“6年後のヒーロー候補”へ熱いメッセージ。「競技に夢中になっていたら結果的にパラリンピックに行くことができていた」(鈴木選手)、「子どもたちには無限の可能性がある」(河合氏)、「夢や目標は自分だけのもの。人と比べてはいけない」(京谷氏)という言葉の数々も、参加者を大いに激励していた。

〈著者紹介〉

矢内由美子(やないゆみこ)/ライター

北海道生まれ。スポーツニッポン新聞社を経て06年からフリーランス。新聞社時代は主にテニス、モータースポーツ、五輪、サッカーなどを担当。現在は主にサッカー(Jリーグ浦和レッズ「REDS TOMORROW」編集長、日本代表)や五輪種目(体操、スピードスケート)を取材。14年は2月にソチ五輪、6月にサッカーワールドカップを取材。ヤフー!個人 http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/