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レーザーレーサーを憂う世界の動き

文:折山淑美

 昨年末、オーストラリア水泳連盟が、18歳以下のジュニアの選手を対象に、昨年話題になったスピード社の水着「レーザーレーサー」など、上半身から足首までを覆うフルボディスーツタイプの水着の着用を禁止することを決め、今年4月から適用するというニュースがあった。

 それによれば、禁止を決めた理由は、どの水着を着るかに振り回されてトレーニングがおろそかになっている現状に歯止めを掛けるためという。ジュニアの大会が対象で、許されるのは男子が最大で腰から膝までを覆うタイプ。女子は背中と肩を出したスタイルで長さは膝まで。ファスナー付きは認めないという。
 また同連盟は、国際水泳連盟に対し、今後は新しいタイプのハイテク水着を許可しないよう公式に要請したという。

 その決断は、水泳や水泳選手のためにも意味のあるものだと思う。

 昨年「レーザーレーサー」が問題になった時、オーストラリアには世界の水泳関係者に対し、その水着の着用禁止を呼びかけたコーチもいた。
 高価な水着を着れるか着れないかで有利不利が出てしまえば、人間が体ひとつで勝負するスポーツとは違ってしまう。だがそれ以上に問題と思えたのは、体を極端に締めつけて体積を減らし、水の抵抗を少なくしようとする水着のコンセプトだ。あるコーチの計測では、胸回りは5㎝ほど引き締まっていたという。そのコンセプトを規制することなく締めつけ合戦が激化すれば、シニアはともかく体が発育中のジュニアには弊害が起こることも予想できるからだ。

 サポーティング効果で腰のポジションなども維持しやすく、浮力感も感じるという。だがそれは各選手が練習やトレーニングで獲得して勝負するものだともいえる。それをどこまで認めるかということも重要だ。

 あの騒動自体はヨーロッパメーカーの技術開発で、98年長野五輪後のジャンプスーツのルール改正時に似て、日本は後追い状態だった。だがジャンプがスポーツとしての各選手の身体能力を重視するためにスーツを小さくして空中での浮力を受けにくくしたのに対し、水泳の水着は、いわば、浮力を受けやすくするともいえる方向へ進んでいったことが問題だ。レーザーレーサー自体は、これまで関係者や選手が見逃していた盲点を突いたものだった。

 スポーツがビジネスとしても成立するようになった今は、どの競技でも用具の技術革新は重要な要素になっている。だからこそ、人間の体自体を変えてしまうドーピングが禁止されていると同じように、用具の開発にもある程度の歯止めは必要だ。それを無視して、ただ単にこれまで以上の速さや強さだけを競い合っていれば、スポーツはその本質から大きく外れていってしまう可能性もある。

 国際水泳連盟がこのあと、水着開発問題に対してどういう態度をとるのかを注目したい。

 それはどの競技にとっても、将来へのひとつの指針になるものだろう。

ビクトリア、晴れ時々肌寒し

文:折山淑美

「25歳を過ぎた、五輪と世界選手権のメダリストが、自己記録を1秒以上更新するというのは、本当に凄いことだと思うんですよ」
 北島康介や中村礼子を指導する、東京SCの平井伯昌コーチが、心底感心したような表情で、ポツリと口にした。8月20日、カナダのビクトリア。競泳のパンパシフィック選手権が開催された、コモンウェルス・プールでのことだった。

 大会初日の17日の女子200mバタフライ決勝。2分07秒99の日本記録を持つ中西悠子は、スタートから日本記録の時のラップを上回るペースで泳いだ。 100mと150mの折り返しはともに約1秒のアドバンテージ。2分05秒40の世界新で泳いだジェシカ・チッパー(オーストラリア)には水を開けられたが、ラスト50mでも粘り、2分06秒52の日本新記録でゴールした。この数年ずっと口にし続けてきた2分6秒台突入。電光掲示板を見る彼女の眼は涙ぐんでいた。

 03年世界選手権で初めて銅メダルを獲得した中西は、04年アテネ五輪、05年世界選手権もまた銅メダルを獲得している。だが、その上の壁はどうしても崩せない。アテネ五輪の1位と2位は2分6秒台前半。05年世界選手権ではそれが2分05秒61と2分05秒65になった。 04年日本選手権で2分07秒台にやっと到達したとはいえ、トップとの差は徐々に開いていくばかりだった。

 もっときれいな色のメダルを獲りたい、そんな思いで25歳になる今季、泳ぎのフォームを変えたのだ。マイケル・フェルプスやイアン・クロッカーのような上下動のない動きを目指した。その完成途上だった4月の日本選手権では高3の矢野友理江に敗れて200mバタフライの連覇記録も5で途絶えたが、悔いる様子はなかった。だがその思い切った決断が、2分6秒台突入を現実にさせた。

「7秒台前半が目標だったから、まさかここでくるとは思っていなかったですね。でもこのフォームでタイムが出ることがわかったし。コーチを信じてやってきて、本当に良かったです」

 2日後の100mでも日本記録を狙った。だが、最低限の目標としていた58秒台に届かず59秒13で4位に。「後0秒1だったのに」と、明るい表情で悔しがる。「まだ新しい泳ぎが固まっていないので、速い動きになるとまだまだですね。やっぱり10何年間もやってきた泳ぎを、1年で完全に変えるのは無理ですからね。しっかり時間をかけて固めていきたいですね」
 まだ完成途上だからこそ、中西は先を見れるのだ。6秒台を出したことで、次は5秒台への意欲もわいてきた。

 25 歳になった彼女が、そんな意欲を持ち続けることができるのも、100mバタフライの日本記録を保持する大西順子という存在があったからだろう。彼女のアテネ五輪挑戦は29歳の時。引退が速い女子水泳では違例の長寿だった。挑戦し続けた大西がいたからこそ中西の心は、3個のメダルを獲ッたことで満足することなく、次への冒険へと掻き立てられたのだろう。そして彼女がまた、後に続く選手たちの気持ちを掻き立てていく。

 そんな楽しみを感じることができたパンパシだったが、水泳とは関係ないところでは頭を捻ってしまった。会場の大きなモニターには時々、日本の某消費者金融のCMが堂々と流されていたからだ。キーの高い声でしゃべり、何故か最後は空をクルクル回るCM。現地の観客は何事が起きたのかとキョトンとするばかり。英語の字幕も何もないから、わかるはずはない。「何のために流してるの」と、日本人記者たちも首を捻るばかり。
 何とも水を差してくれました。

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