当協会会長水谷章人より久保田五十一氏に記念の写真盾を贈呈

第7回 AJPS AWARD 2013

第7回AJPS AWARD 2013は会員及び実行委員からのノミネート者4名(件)からの選考作業に入りました。
実行委員による協議、審議いたしました末、AJPS AWARD2013は久保田五十一(くぼた いそかず)氏に決定したことをお知らせいたします。

第7回 AJPS AWARD 2013「久保田五十一」氏に決定!

久保田五十一(くぼたいそかず)■受賞理由
「55年もの長きにわたり数々の名選手のバット製作に携わり、匠の技術を後世まで残した功労と実績は日本のスポーツ界に大いに寄与された」として選出されました。

久保田五十一(くぼたいそかず)

1943年(昭18)4月6日生まれ、岐阜県養老町出身。高田中卒業後、59年にミズノ入社。一貫してバット削りを担当し、65年ころからプロ担当に。ヤンキース・イチロー、元巨人、ヤンキース松井秀喜氏ら日米の一流選手のバットを手掛けた。03年に厚生労働省「現代の名工」に選ばれ、05年に黄綬褒章受章。

第7回 AJPS AWARD 2013 表彰式

2014年度(平成26年 度)AJPS総会後の懇親会にて、AJPS AWARD2013の表彰式が開催され、受賞者の久保田五十一氏をお招きし、当協会会長より記念品の写真盾が手渡されました。その 後、壇上にて当会員木村公一司会のもと久保田五十一氏より貴重なお話を伺い ました。

第7回 AJPS AWARD 2013 記念写真盾
第7回 AJPS AWARD 2013 記念写真盾
当協会会長水谷章人より久保田五十一氏に記念の写真盾を贈呈
当協会会長水谷章人より久保田五十一氏に記念の写真盾を贈呈
当会員木村公一司会のもと久保田五十一氏から貴重なお話を伺う
当会員木村公一司会のもと久保田五十一氏から貴重なお話を伺う

第7回 受賞者インタビュー 久保田五十一氏

久保田五十一氏久保田五十一氏は昭和34年から55年間の永きにわたり、スポーツメーカー『MIZUNO』で、バット職人としてイチロー、松井秀喜らをはじめ数多くの野球選手にバットを提供してきた。そして後進の育成を終えて、71歳の今春に“卒業”。これを機に今回、バット職人の神髄を少しだけ、語って貰った。

・・55年という勤続年数もさることながら、その間に造られたバットの数はどれくらいになるのでしょう?
久保田 多いときで月に千本は造っていました。年間で1万2千本。ですから、55年間ですと、ざっと40万本くらいになるでしょうか。

・・途方もない数字ですね。
久保田 すべてがプロ仕様ではありません。一般の方向けも含めてです。また造るといっても、専門の業者から素材となるアオダモの木を納入後に粗削りをしますので、最後の行程はバットを持つグリップ部分の削り、いわば仕上げが中心なんです。1本につき15分か20分で仕上げます。最初から1本ごとに素材(四角い木材)から削っていくわけではないんです(笑)

・・プロ打者の場合、1年で何本くらい使うのですか?
久保田 イチローさんなどで年間80本くらいでしょうか。そのうち40本くらいが試合で使い、残りは試合前の打撃練習用と、使い分けてるらっしゃいますね。

・・なぜ使い分ける必要があるのですか?
久保田 バットの“寿命”って短いんです。どれだけ選手本人が気に入ってくださったとしても、何年も使えるものではない。イチローさんクラスでせいぜい40試合くらい。打つポイントが、ごく限られる1カ所なので、すぐに摩耗してしまうんです。

・・とすれば、久保田さんがどれだけ「これはいい出来だ」と思っても、使われるのはわずかの期間。
久保田 そうですね。ときどき芸術家の方たちが羨ましいなと感じることもありました。画家や陶芸家は、年に一作、いや生涯に一作でも最高傑作と思えるものを創ればいいかも知れない。でもバットという消耗品に「永久の名作」はないんです。それでいて、高いレベルの選手たちは高い要求をなさいますからね(苦笑)。

・・最も記憶に残る選手は、落合博満さんとか。
久保田 落合さんは、私の職人人生に大きな影響を与えた人物のひとりですね。巨人時代に、バットを提供し、オフに工場まで来て戴いたことがあった。そのときシーズンで使っていたバットを持ってきて貰ったのですが、グリップエンドに「×」とある。落合さん曰く、「測ってはいないが、わずかに細い」と。正直言って、私が握っても感触に違いはありません。でも細いと仰るので、測ってみると、実際に0.2ミリ細かったんです。

・・その違いをわかる落合さんはすごいですね。
久保田 はい(苦笑)。髪の毛1本の太さの感覚です。ただですねえ、当時、私は0・2ミリの“誤差”は、造る者として許容範囲と思っていました。選手たちにもそうお断りしていたんですが、落合さんは妥協しなかった。

・・その0.2ミリの違いが、打席でスイングするときに影響を与える。究極のこだわりであり、感覚ですね。
久保田 バットには、みっつのポイントがあります。ひとつは長さ、ふたつめがこのグリップの感触、そして振ったときに感じるバランス。このみっつが揃って、初めて「良いバット」となるわけです。ただその「良さ」は、10人いれば10人とも違う。これがバット造りにおける、最も難しいところですね。

・・イチロー選手にとって良いバットが、松井秀喜選手も良いとはならない。
久保田 落合さんのように、その選手ご自身でも持った感覚で違ってもくるわけですし。この違いをどれだけ埋めようとしても、最後は素材となる木の質によってくるのですが、まったく同じ乾燥状態など質の同じものは難しい。
それと“造る本人が試せない”というのも、バット造りの特徴というか、難しさのひとつですね。バットとは、打って初めて感触を確かめられ、善し悪しが判断できる。でも私にはプロの投手の球を卯木自由や能力はありません。球速140キロの変化球を打てない(笑)。だからすべて注文主である選手の要望を、感覚で受け止め、“削り”に反映させていかなければならなかった。おかげさまで名工とか、匠とか称号も戴きました。けれど最後まで、不安を抱きながらの仕事だったんです。それは、そうした感覚がすべての作業だったからなんですね。

(取材/構成=木村公一)