「2014 FIFA World Cup Brazil」 Photo 近藤篤

 

サムライブルーはまったく何もできないまま、三試合を戦ってブラジルの地を去った。

開催国のブラジルは、準決勝で1−7というスコアでドイツに敗れた。大会が三分の二を過ぎたあたりで風邪を引き、そのまま決勝までかなり体調不良の状態でブラジルの北と南を往復した。飛行機は何の連絡もないまま、勝手にフライトスケジュールが変更になり、深夜バスの車内は真冬の夜のように冷房で冷えきっていた。同じ部屋に寝泊まりした友人のいびきはトドに添い寝をしてもらっているかと思うほどうるさかった。(僕のいびきもうるさかったらしい)ネイマールは背中に膝蹴りを入れられてベストエイトで大会から姿を消し、メッシは決勝をのぞいてほとんどの時間どこでなにをやっているのかわからなかった。

と、書くと、なんだか全然楽しめなかったように聞こえるが、ワールドカップの30日間はすばらしい日々だった。喜びの歓声があり、失望の沈黙があり、様々な国の肌の色とユニフォームの色があった。ワールドカップなんてもうこりごりだ、決勝戦の数日前はそう思っていたが、そろそろまた4年後のロシア目指してがんばるか、なんて近所のドトールで一人アイスコーヒーを飲みながら考えていたりする。

<著者・撮影者紹介>

近藤篤(こんどうあつし)
1963年、愛媛県今治市生まれ。上智大学外国語学部スペイン語学科卒。1986年、大学卒業後中南米に渡り、ブエノスアイレスにて写真を撮り始める。1994年に帰国。「スポーツ・グラフィック・ナンバー」を中心にサッカー写真、人物ポートレイト、紀行ものなどを発表。著書に、フォトブック『木曜日のボール』、写真集『ボールの周辺』、新書『サッカーという名の神様』(いずれもNHK出版)がある。2013年5月、ライフワークとして撮り続けてきた、世界のあらゆる場所でサッカーに興じる人々の写真を厳選したフォトブック『ボールピープル』(文藝春秋)を刊行。