「拳の行方」 Photo 中西祐介

 

ある日、夜更かしをしながら深夜テレビを眺めているとスポットライトに照らされたリングの上で、拳のぶつかり合う鈍い音と同時に二人の男が殴り合う姿が私の視界に飛び込んできた。それが、私とボクシングが繋がった最初の瞬間だったのかもしれない。リング上で輝きを放つボクサーは、私が持っていない光を放っていた。私はいつの間にかその姿に心を奪われた。それからいつも頭の中にボクサーの姿があった。

なぜ、男達はボクサーを目指したのか、ボクシングの何に魅せられたのか、その思いに触れてみたいと思った時、行き先は自然とボクシングジムに決まった。華やかな舞台だけではなく、彼らのボクシングに対する思いを間近で掬い上げていきたいと思った。それ以来十数年の間、この場所に通い続けている。

ジムを訪れる度にボクサーの体つきや精神面での成長を見ると嬉しい気持ちになる。特に試合が近づいてくると一人の男から戦う男へと変身していく姿が見てとれる。拳を研ぎ澄ませ、闘争心を掻き立てながらスポットライトの当たるリングを目指す。

それは日常の中には存在しない特別な世界。その時、男はボクサーという生き物になり、眩しいほどの光を放ちながら駆け抜けていく。

 

<著者・撮影者紹介>

中西祐介(なかにしゆうすけ)

1979年東京生まれ?東京工芸大学芸術学部写真学科卒業 講談社写真部勤務を経て2005年よりアフロスポーツ所属 学生時代よりボクシングを撮り始め、現在はオリンピック、ボクシング世界戦など様々なスポーツを追う。ライフワークとしてボクサーのドキュメンタリーなどの作品制作も行う。

写真展

2006年 Fight (富士フォトサロン東京)

2012年 拳の行方 (キヤノンギャラリー)