「2014年プロ野球の不思議」Text 人見和生

人見和生=文

■Bクラス3チームが、すべてサヨナラ勝ちした日

2014年のペナントレース。
セ・リーグは、打撃ベストテンに一人の姿もなく、3割打者もゼロに終わった貧打(チーム打率.257 は、リーグ5位)巨人が、2位阪神にゲーム差を7も離しての不思議なリーグV3。

パ・リーグ優勝は、日本一に輝いたソフトバンク。巨人とは対照的に打撃ベストテン3位から7位まで3割打者が5人ずらりと並び、チーム打率もダントツの.280。巨人以上に楽勝のはずが、最終戦直前までの10試合を1勝9敗の千鳥足。シーズン最終戦、144試合目のオリックス戦に延長10回サヨナラ勝ちし、鼻差逃げ切りを果たした。2位オリックス(80勝)に、勝ち星は2つ少ないが勝率(.565)で2厘上回ったという引き分けマジックでの、こちらも不思議なVだった。


不思議なことはなにもペナントレース優勝チームだけにあったわけではない。力及ばずBクラスに甘んじることになったチームも、いくつも不思議を見せてくれた。

例えばパ・リーグ。

シーズンも押し詰まった9月20日。0.5 ゲーム差の中で、つば競り合いを演じていた下位の3チームが、揃ってAクラスの3チームにサヨナラ勝ちしたのだ。

その時点で4位の楽天が3対2。3位につけていた日本ハムの優勝の可能性を消した。同5位の西武は延長10回6対5。首位のソフトバンクはこれで4連敗。あの10戦1勝9敗の泥沼へ沈んでいった。そして最下位にいたロッテは、4対3の逆転サヨナラで、首位追撃の波に乗れないオリックスの足元を、いたずら小僧のように掬(すく)った。

全3試合サヨナラゲームの珍事、パの試合では、1993年5月6日の西武4?3近鉄、ロッテ7?6日本ハム、ダイエー3?2オリックス以来、21年ぶり2度目のことだった。

ロッテはもう一つ、不思議な記録を残した。

ソフトバンクは今季6試合の無得点負けがあり、うち、3試合が0?1。なんとそのすべての相手がロッテなのだ。

「そう楽には勝たせてくれないということだね」と秋山監督は平静を装ったが、間違いなく優勝への足取りを重くした出来事だろう。

ちなみに、ロッテは、1996年に近鉄を相手に6試合完封勝ちをしている。さらに遡ると、1969年に、ソフトバンクの前身である南海に7完封勝ちという因縁めいた記録もある。それは1949年、2リーグ制となって20年目のシーズン。その間、たった1度しかBクラス(67年、4位)を経験せず、優勝9回、2位8回という栄華を誇った巨大王国・南海が、初めて最下位に沈んだのだ。今季のソフトバンクの艱難辛苦は、ある意味当然だったのかもしれない。

セ・リーグの超常現象は、最下位ヤクルトだ。打撃ベストテンに山田哲人(3位、.324)、雄平(6位、.316)、畠山和洋(8位、.3104)、川端慎吾(.305)と、4人が名を連ね、11位につけたバレンティン(.301)までの5人が3割をマークしたのだ。チーム打率は他を圧しての.279。12球団トップのソフトバンクにわずか1厘差。総得点は、あの広島(649点)もソフトバンク(607点)もかなわぬ667点で1位だ。脆弱な投手力がその光を消してしまったとはいえ、これで最下位は、あまりにも極端すぎる不思議な結果であった。

■最後まで驚かされた山田哲人(ヤクルト)

沈んだままでシーズンを終えたヤクルトにあって、我々ファンを驚かせ続けたのが山田哲人内野手だ。

レギュラーシーズン1軍経験なしのルーキーが、いきなりCSスタメン出場(2011年)というド派手なデビューを飾って4年目の今シーズン。初めて1番セカンドでレギュラーに定着するや、快調に打ち続け、最終的には193安打。阪神・藤村冨美男内野手(当時)が1950年に記録した、右打者の日本選手シーズン最多安打記録191本を、いとも簡単に見えるほどすんなりと更新してしまったのだ。

ただ、パ・リーグで今季このタイトルを取ったのが、優勝チームソフトバンクの中村晃外野手(176本)であること。これは妥当といえば妥当。最下位チームからのタイトルホルダーは、2リーグ制になって以後、わずか6人(土井正博・近鉄が2度)、21世紀では谷佳知(当時オリックス、03年、189本)、ラミレス(当時ヤクルト、07年、204本)、内川聖一(当時横浜、08年、189本)しかいない。珍事と言おうか、これもやはり不思議な出来事と言えるのかもしれない。

さらに、本塁打もリーグ3位の29本打ち、その中に初回先頭打者本塁打を6本も織り交ぜてくれた。この本塁打のシーズン記録は高橋由伸(巨人)の9本。それ以外にも8本を打った選手が6人ほどいるが、4月から6か月連続は史上初の快挙だ。

ルーキーイヤーのオフにインタビューしたことがある。「守備は全くだめですけど、足と肩には自信があります。打についても、1軍投手のボールに目が慣れてきたんで、なんとか対応できるかなと思えるようになりました」

と、語っていたが、彼の素質と努力を見ていれば、今季のこの活躍は少しも不思議ではない。やがては「優勝?山田がいるから当然だよ」と誰からも言われる存在となり、チームを、リーグを、そして日本プロ野球界を引っ張る選手になってくれるはずだ。

<著者紹介>人見和生(ひとみかずお)
福島県郡山市出身。フリーのライターとして学生時代から出版社系各種雑誌に執筆を続ける。芸能もの、旅ものなど幅広く取材しているが、得意ジャンルはスポーツ。野球はプロアマ、海外を問わず飛び回り、サッカー、ゴルフ、アメフトなども守備範囲。