「アギーレジャパン 親善マッチ6試合は”プラン通り”も不安はアジアカップ後」text 河治良幸

河治良幸=文

フレッシュな選手にとって試金石“だったブラジル戦

アギーレジャパンがスタートして4カ月がたった。この間の6試合は9,10月を”選手見極めの4試合“、11月を”アジアカップに向けた実戦モードの2試合”というように分けることができる。

アジアカップまでの間に、アルゼンチン戦と韓国戦の2試合しか準備がなかったザックジャパンと違い、アギーレジャパンには6試合のテストマッチが用意された。だが、拘束日数は合わせて1カ月足らず。そのため指揮官は、ベースとなる[4−3−3]の基本的なコンセプトだけを示し、選手の能力や適性を見極めることをメインとしたのだ。

“見極めの4試合”を振り返ると、9月の2試合には5人の代表初招集選手を入れた。ザックジャパンで出場機会がなかった柴崎岳も招集し、ブラジルW杯を戦ったメンバーから約半数を変えた。日本サッカーそのものをよく把握できていない状況で、Jリーグで目に付いた選手を手元に置いて試してみたかったのだろう。その結果、初陣のウルグアイ戦で完敗し、ベネズエラ戦も2−2の引き分けに終わった。

一方、10月の2試合は、1試合目が比較的与しやすいジャマイカ戦で、2試合目が長距離移動も伴うシンガポールでの強豪ブラジル戦。指揮官がジャマイカ戦に主力選手を多く使い、手堅く勝ちに行ったのは、ブラジル戦で思い切ったテストをするための下地作りのためだった。

ブラジル戦ではジャマイカ戦からスタメンを6人も変更した。特に[4−3−3]の中盤は、ベネズエラ戦とジャマイカ戦の活躍で評価を高めた柴崎岳、初スタメンとなる田口泰士と森岡亮太という若いトリオを組ませた。しかし、結果は4−0の惨敗を喫した。

試合後、選手起用の意図に関して改めて問われたアギーレ監督は、「アジアカップのような、重要で責任のある場に挑めるかどうかを見たかった」と語ったが、フレッシュな選手たちにとっては大きすぎる試金石となった。

初先発の田口や森岡だけでなく、ジャマイカ戦後にはアギーレ監督が「まるで20年も経験を積んだかのようなプレーを見せてくれる」と高く評価した柴崎もブラジルを相手に浮き足立ち、決定的な2失点目につながるミスをしてしまった。これにより、指揮官は11月には経験豊富な選手たちを起用しようという考えに変わっていったのではないか。

実績組で“本番モード“の2試合に勝利

アジアカップに向け残り2試合となった11月のメンバー選考では、「最終リストを作るために重要な2試合」(アギーレ監督)と位置づけ、ブラジルW杯でも年長者だった遠藤保仁と今野泰幸、さらにシャルケで実戦に復帰していた内田篤人がアギーレジャパン初選出。9月に左膝の違和感で途中離脱した長谷部誠、ザックジャパン時代に招集経験のある豊田陽平と乾貴士も復帰した。一方で、未経験のメンバーは1人も選ばれなかった。

6?0と大勝したホンジュラス戦では、経験豊富な選手たちが改めて主力としての貫禄を示した。[4−3−3]という新システムと自由度の高い攻撃スタイルで、オシム元日本代表監督流に表現すれば”古い井戸の水“の選手たちが依然として日本最高の品質を失っていないことを示した形だ。

「ベストメンバーで行く」とアギーレ監督が語ったアジアカップ開催国のオーストラリアとの試合でも、右ひざに不安のある内田の代わりに左利きの太田を入れ、酒井高徳を左サイドバックから右に移したが、それ以外は、ホンジュラス戦と全く同じ先発メンバーだった。

前半は相手の厳しいプレッシャーと、日本と同じ[4−3−3]の形からアンカー長谷部の左右にあるスペースを徹底して狙われリズムを失ったが、30分過ぎに遠藤をボランチに下げ、香川をトップ下に配置する[4−2−3−1]に変更すると守備が安定を取り戻した。

さらに後半から遠藤に替えて投入された今野泰幸が先制点をたたき出すと、その後もオーバーラップした森重真人のショートクロスから岡崎慎司が追加点をあげて2?0とリードを広げた。最後はロングクロスを途中出場のケーヒルに合わせられ、後味の悪い失点を喫したが、思惑通りにアジアカップ前の最後の2試合を連勝で締めくくることができた。

言い訳できないベストメンバーでアジアカップに挑む

オーストラリア戦では、アギーレ監督は選手交替を公式戦と同じ3枚の交代枠にとどめている。交代の内訳は、今野、乾、豊田と、全てザックジャパンから実績のある選手。負傷の影響で11月のメンバーから外れたDFの長友佑都、9月、10月の4試合で「彼のことは直に見てよく分かった」とアギーレ監督が語るMFの細貝萌がアジアカップのメンバーに復帰してくれば、ザックジャパンのメンバーがほとんどを占めることになる。

スペインなどでの過去の経歴を見ると、アギーレ監督はその時点のベストメンバーをぶつけていくタイプだということがハッキリしている。9月と10月の4試合では、自分で目を付けた新しいメンバーをテストしたが、”試金石“のブラジル戦で彼らは経験不足を露呈した。実績のあるメンバーでアジアカップを戦うというなら、それは現実的に的確な判断と言えるが、裏を返せば言い訳のできないメンバーで必勝を期すということだ。

現在はスペイン1部リーグでの八百長疑惑の渦中にあるアギーレ監督だが、この件が問題なかったとしても、アジアカップの結果が協会のみならず、国民の評価に直結することは間違いない。本当に心配しなければいけないのはその後に控えるW杯予選だが、まずはアジアカップでどういう戦いを見せるか、そして優勝をつかみ取れるのかに注目したい。

河治良幸(かわじよしゆき)/ライター
東京都出身。サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で日本代表を担当。海外サッカー専門誌の『ワールドサッカーダイジェスト』や『フットボリスタ』にも寄稿し、2014年ブラジルW杯は開幕戦から決勝まで取材予定。プレー分析を軸にグローバルな視点でサッカーの潮流を見続け、セガ『WCFF』シリーズで手がけた選手カードは5000枚を超える。著書は『勝負のスイッチ』『サッカーの見方が180度変わるデータ進化論』など。Twitter IDは @y_kawaji