「表情力」 Photo 金子悟

 

涙か笑顔か。ファイナルの幕切れを告げるホイッスルを聞きどんな表情を浮かべるのだろうか。試合終了までの数分間、ずっとそんなことを考えていた。

6回目の出場となった女子ワールドカップ。このカナダ大会が自身最後のワールドカップとして臨んだサッカー日本女子代表・MF澤は、ピッチ上でそのホイッスルを聞いた。ホイッスルがなった瞬間、自分の撮影ポジションからは後ろ姿で表情は見えない。澤のすぐ横では、今大会中に40才を迎えた米国のベテラン・DFランポーンが両手を上げて優勝の喜びを表現している。

今大会の澤の写真を振り返ると、キャプテンとして戦った前回のドイツ大会と比べて、表情に富んでいた。”表情力”とでも言おうか。その力に惹きつけられレンズを向ける機会が自然と増えていた。

帰国後の会見では「終わってみて、本当に楽しかった」と話した。最後のワールドカップを悔いなくやりきったからこそ出た言葉だったのではないだろうか。

あのホイッスルの瞬間、澤の表情を見ることはできなかった。だが、きっと充実感に満ちたすがすがしい表情をしていたはずだ。

<著者・撮影者紹介> 金子悟(かねこさとる)

1974年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学芸術学校空間映像科卒。卒業と同時にフリーランスとしてサッカーの撮影を開始。当初から女子サッカーにも注力。現在はJリーグオフィシャルカメラマンを務めるなど、男女、年代を問わずサッカーの取材を中心に活動。FIFA 女子ワールドカップ ドイツ2011、AFC 女子アジアカップ ベトナム2014で、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)の大会初優勝を取材。