「13度目の世界一」 Photo 佐野美樹

9月初旬、ラスベガスで行われたレスリング世界選手権で、伊調馨が五輪を合わせた世界大会で13度目の世界一に輝いた。

レスリング界では、世界記録や連勝などで吉田沙保里が多く取り沙汰されるが、伊調もまた吉田に肩を並べる記録の持ち主でもある。

今大会はリオデジャネイロ五輪の出場を欠けた重要な大会となっていたが、危なげなく勝ち進み、決勝ではテクニカルフォールで圧勝。彼女の4度目の五輪出場が内定した。

伊調のプレーは一言で表すと「クール」という言葉に尽きる。

試合中はいつでもポーカーフェイス。国内の大会はおろか、世界選手権であっても、優勝をして大喜びをしている彼女の写真は一度も撮ったことがない。あるとすれば、4年に一度、五輪の決勝の舞台だけであろうか。

淡々と試合に勝ち続け、優勝しても尚、今大会も自身のレスリングを「25点」と言って退けた。そのクールさと、計り知れないどん欲さは、伊調の良さであり、私は彼女のそんなところが大好きだ。

試合後「相変わらず優勝決まっても笑顔ないね」と冗談半分に水を向けると、「カメラマン泣かせですみません」と大きなえくぼを作ってニッと笑った。そんな屈託のない笑顔もまた、彼女の大好きなところでもある。

来年には、伊調にとって4度目の五輪が待っている。そこで優勝するということは、日本史上初、前人未到の『五輪4連覇』を達成することを意味する。

歴史が変わる瞬間に10ヶ月後立ち会えるのかと思うと、今から楽しみでならない。

<著者・撮影者紹介> 佐野美樹(さのみき)

1977年生まれ、東京都出身。
フリーランスのフォトグラファーと?して、サッカーやレスリングを中心としたスポーツや、人物ポートレートなど幅広い分野で活動。
また、2008年より講談社『モーニング』誌上で人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のスピンオフコラムを連載。
撮影に加えてインタビュー・執筆まで担当する同連載を書籍化した『コトダマ?―蹴球魂?Jリーガーを変えた一言―』が好評発売中。