「V・プレミアリーグ女子ファイナル・絶対的エース不在で手にした栄光」 Text 小野哲史 / ONO TETSUSHI

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女子バレーボールのNECレッドロケッツが、4月4日のV・プレミアリーグファイナルで、3連覇を目指した女王・久光製薬スプリングスを破り、2004/05シーズン以来となる10年ぶり5度目の優勝を果たした。

昨年11月に開幕し、約4ヶ月半にも及ぶ長い戦いの末にたどり着いたファイナルの舞台だった。主将の秋山美幸が「負けることも重ね、そのたびにみんなで考え、成長しながら戦ってきたシーズンでした」と振り返ったように、そこまでの道のりは決して平坦ではなかった。

全日本の一員でもある大野果奈を開幕7戦目から欠くことになったレギュラーラウンドは2位にくい込んだものの、上位5位までの4チームに対し、1勝2敗と負け越した。プレーオフのV・ファイナルステージに入る直前には得点源のイエリズ・バシャが練習中に右手親指を骨折し、チームには暗雲が立ちこめた。それでも、攻守の要として若いチームを引っ張ってきた近江あかりは「目標だった優勝に向けて不安に思うことはなかった」と語る。

「主力が離脱しても新しく入るメンバーで、練習の時からそれまでとは違ったバレーができていましたし、何より一戦一戦、目の前の試合を戦うことに精一杯でした」

山田晃豊監督は様々なことを想定しながら今リーグに臨んだが、良くも悪くも想定外のことが多かったことを明かした。

「良い意味で想定外だったのは、柳田光綺や古賀紗理那ら、入社まもない選手たちの活躍です。チームが苦しい時に起爆剤になってくれました。また、たとえ誰かが戦線を離脱しても、それによって逆にチーム力がより一層高まった面もあった。それは、いかに補い合うかという部分がベースにあったからできたことだと思います」

 

■選手やスタッフが一丸となって手にした栄光

内定選手として2月の試合でVリーグデビューを果たした古賀は、3月まではまだ高校生ながら、「将来の全日本のエース」とも言われる実力の片鱗を披露した。入社1年目の柳田はイエリズの穴を埋める形でスタメンに抜擢され、168センチメートルという身長を感じさせない驚異的な跳躍力と変幻自在のスパイクで、相手チームを次々と手玉に取った。V・ファイナルステージの7試合ではチーム最多得点をマークし、今季の最優秀新人賞に選出された柳田は、「1点1点気持ちを込めて、練習でやってきたことを出せました」と笑顔が弾けた。

そうした若い選手が伸び伸びと活躍できたのも、最高殊勲選手賞に輝いた近江をはじめ、ベスト6に選ばれた山口かなめや島村春世、ベストリベロ賞受賞の岩?紗也加や白垣里紗ら、軸になる選手たちが脇を固め、控えに回った選手たちもしっかりとバックアップしたからにほかならない。

今季、NECが掲げたスローガンは『心』。絶対的と呼べる大エースはいない。だからこそ心を一つにし、選手やスタッフが一丸となって手にした栄冠だった。

(初出:スタンダード神奈川 2015年6月10日発売号)