「ピッチの深層」 Text 安藤隆人 / ANDO TAKAHITO

AJPS報道展「The BEST」ライター会員作品集

一瞬の判断だった。

アジアカップ準々決勝、UAE戦。日本代表MF柴崎岳が、圧巻のプレーを見せた。

54分に遠藤保仁に代わって投入されると、そのシーンは81分に訪れた。柴崎は左サイドからのパスを中央で受けると、一旦右サイドに持ち出すと見せかけて、バイタルエリア中央にいた本田圭佑の足下に、鋭くピッチを走らせる縦パスを送り込む。パスを出すと同時に縦に走り込んだ柴崎は、本田のワントラップからのリターンパスを、ダイレクトに右足インフロントで捉え、ゴール左サイドネットに突き刺した。

ほんの一瞬の出来事であった。攻撃の起点、フィニッシュすべて自らが行い、すべての動きに無駄の無い、まさしくスーパープレー。これは決して偶発的に生まれたものではなかった。彼のきめ細かい考えと狙い、そして確かな技術に裏付けられた、『必然的なプレー』だったのだ。

もともと2列目からワンツーではたいて、一気に前線に飛び出していくプレーは、彼の真骨頂だった。

「こだわってやっているつもりは無いけど、基本技術が必要となってくるし、時間帯によっては効果的に発揮出来る手段だと思う。相手の隙と言うか、集中力が途切れやすくなる戦術でもあるから、非常に効果的だと思う」。

彼は一見、周りを使う側の選手と思われがちだが、実は使われる側のプレーにも長けている。むしろ生かされることに喜びを感じている選手と言っていい。彼は青森山田高校時代、こう語っていた。

周りを生かし、かつ自らも生きるプレーを求める。自らが起点となり、自らがおとりやフィニッシャーとなる。これこそがワンツーであり、密集地帯になればなるほど、彼が躍動する瞬間でもあった。

「ワンツーできる選手と出来ない選手がいる。質が高く出来る選手も入れば、雑な選手もいる。当然、前者と組めば、バリエーションは増えるし、得点になるケースも多い。チャンスにもなりやすい」。

ワンツーが出来ない選手。岳がボールを持つと、受けることに没頭してしまえば、当然ワンツーできない。

「まずはボールを収めたいという気持ちのある選手も入れば、自分の動きを見てくれる選手、予測をしてくれて出してくれる選手もいる。さらにその出すパスの質も、自分の欲しいところに前過ぎず、後ろ過ぎずのところに落としてくれる選手もいれば、出来ない選手もいる」

ワンツーからシュート、突破はいわば『予測と予測のプレー』だ。出し手が予測するだけでなく、受けても予測する。さらには出し手が予測の範疇に自分だけでなく、相手の予測も入れておかないといけない。一見簡単そうに見えるが、それはかなり高度な技なのだ。当然、密集度やプレッシャーが高くなればなるほど、それはさらに高度になる。

「基本的にボールを取りにきてくれた方がワンツーはやりやすい。相手との信頼関係もあるし、レベルの高い選手になればなるほど」

これまであのプレーはスーパープレーとして、目の肥えたサッカーファンをもってしても、強烈なインパクトを与えた。

遠藤から横パスを受けた時、何を考えていたか。

「右サイドバックの(酒井)高徳くんが、右サイドで動き出していたのは分かっていたけど、ちょうど圭佑さんが中に入ってきていたのが見えたので、圭佑さんはフィジカルの強さもあるので、ワンツーではなくてもタメは出来ると思った。でも、速いテンポで中を崩しにいくイメージはあったし、出した後に動いて受けるまでのイメージはあった。最終的には、判断をするのは圭佑さんだし、その選択肢を圭佑くん多く与えることも大事なこと。なるべくボールホルダーに対しては、あれだけ密集した状況では、より近くに寄って、視野に入ってあげて、サポートをしなければいけないという意識は重要だと思います」。

岳がボールを持った瞬間、3人並んだDFラインの前に2人相手選手がいた。岳から観て左にいた相手が、一瞬岳に食いつこうとした。さらに右にいた選手はさらに右にいる本田を視界に入れて、ケアしていた。その状況から岳がそのまま前に行かず、右に持ち出したが故に、食いつこうとした選手が一瞬止まり、本田をケアしていた選手が、岳に食いついて、その瞬間、本田が死角に入った。

「まずどちらにも出せるところにボールを持ち出すイメージだった。この時だと右の高徳くんにも、真ん中の圭佑くんにも」

その後ノールックで縦パス。完全に相手DFは面食らっていた。DFの

彼の特徴でパスを出した後の一歩めが凄く早いしうまい。スムーズに体重移動している。だからこそ、あれだけ速いパススピードで出しても、落としに追いつけるし、相手DFが考えて動く余地を一切与えない。

「意識はしていないけど、あれほどハイレベルでハイスピードな試合展開になると、そう言う一瞬のスピードの変化は大事になってくる」。

「無意識な境地」

第7節・神戸線のゴールも、一度選択肢を増やす作業を行った。作ってから選択した。

「しょうご?が動き出したのが見えたから、ワンツーで返ってきたらシュートを打つと思っていた。ちょうどいいところに落としてくれたから、イメージ通りと言えばイメージ通りかな」

ボランチがあの密集地帯に飛び込んで、打破するためには何が必要だと思う?

「どれだけ相手の考えていないところのスペースを共有出来て、なおかつスピードの変化を加えることが出来るか。ゆったり流れていても、シュートを打つまでの時間はほんの数秒、瞬間の世界でやっていかないといけない。そこのスピードの変化と言うのは大事。あれだけ密集しているところであれば尚更だね」

まさしくそこに岳がサッカーを楽しむ瞬間がある。

「まあ、うまく行けば得点になるし、引っかかればカウンターを食らう場面でもあるから、結構スリルがある場面だと思う。そこの相手との駆け引きもあるし、うまく行けばチャンスになり、ゴールやアシストという結果に繋がることが多い」。

出し入れしてどんどん動くプレー

「人がいれば色んなプレーが出来る。良い関係性を築くことが出来る相手がいれば、使われつつ使う関係がスムーズにいく。その2つの立場でプレーをすることが出来ると思う」。

宇佐美

「やるのは久しぶりだったし、昔からやっている分、どういうプレーをするのか、どこで受けたいのかは分かっているつもり。自分より違う特徴を持った選手なので、にほん代表クラスになれば、色んなイメージも膨らんでくる。宇佐美だけに限らず、みんなに言えること」。

(ZONE)