「それでもロナウドがベストだと思うわけ」 Text 竹澤哲 / TAKEZAWA SATOSHI

 AJPS報道展「The BEST」ライター会員作品集

  クリスティアーノ・ロナウドがベストプレーヤーだといえば、「いやちがう、メッシの方が上だ」と言う人が必ずいるだろう。2人は近年、世界ナンバーワンプレーヤーが受賞する、バロンドールにおいても競い合ってきたし、何かと比較されることも多い。ファンも2つに分かれているのかもしれない。二人ともリーガ・エスパニョーラでプレーし、しかもそれぞれレアルマドリードとバルセロナとライバルチームに所属していることから、マドリードファンがロナウド派となり、バルセロナファンがメッシ派となるのか。あるいは単に好みによって分かれるのか。あのヨハン・クライフなどは、いくらロナウドが得点を多くとろうが、「ゴールゲッターと偉大な選手とはちがう。メッシはチームのために働いているから偉大な選手なのだ」とか言ったりして、メッシ派であるのを通り越し、ロナウドに対する敵意すら感じるコメントを出すことが多い。 たしかにメッシはこれまで数々の記録を築いてきたし、彼が偉大であるのは疑いもないことだ。バロンドールの受賞回数でもメッシの方が一回多いし、ロナウドの一歩先を行っている。 しかしそれでもロナウドの方がすごいと私が思うのは、3つの理由からだ。第一にワールドカップや欧州選手権といった大きな大会で優勝経験のない小国ポルトガルから生まれながらも、小柄でテクニシャンと言ったポルトガル人プレーヤーのこれまでのイメージを払拭する高い身体能力を持つ世界的な選手となったこと。第二に彼が希に見る努力家であること。第三にメッシに比べて反感を示す敵も多いが、強い気持で立ち向かい、その敵をも黙らせるほどの急ピッチでゴールを量産し続けていることだ。   ロナウドが練習熱心であるということはよく知られている。子供の頃は、起伏の多いマデイラ島の坂道をよくランニングしていたというし、またスポルティング時代も、ロナウドの練習に対する取り込み方は異常なぐらいだったと証言する人も多い。ロナウドが15歳の頃のフィジカルコーチ、ルイス・ディアスは次のように話す。 「練習後、シャワーを浴びていると思ったらいつの間にか、水を流しながら腹筋を始めたこともあった。筋トレも彼が一人で勝手にやらないように見張りをつけたほどだった」 ロナウドが腹筋三千回を日課にしているという記事がスペインの新聞に掲載されたこともあったが、多少の誇張はあるかもしれないが、練習に対するシビアな姿勢がそのような記事を書かせたのだろう。 レアルマドリードというビッグクラブの大スターとなってからも、練習に対する態度は変わらない。 スペインの新聞、ムンド・デポルティーボに掲載された『ロナウドの10の秘密』という記事には、彼がストイックなまでにコンディションにこだわっていることが書かれている。 「ロナウドは練習場に一番先に現れ、最後に引き上げる。彼が住むデラックスな家にはジムがあり、またプールで毎日1時間から2時間水泳をする。食事は近くのレストランから料理を取り寄せているが、魚と野菜、ライスにフルーツジュースが基本メニュー。そういった自己管理によって、体脂肪3%以下の身体が作られている」 メッシは昨シーズン、大好きなビザをやめてダイエットに成功したと言われているが、ロナウドにしてみれば、これまで一度も偏食したこともなく、脂肪分の少ない鶏肉や魚だけをとり続けて来た。彼の食事管理は徹底している。 ロナウドのメンタル面の強さ、負けず嫌いも幼少の時からと言われている。 幼少の時につけられたあだ名は「泣き虫」。試合に勝っても負けても、試合後、よく泣いたという。10歳当時、地元クラブ、ナシオナルのタリーニャコーチによると、「感情の起伏の激しい子供だった。プライドも高く、他の子の前で注意されるのを極端にきらったので、個別に部屋に呼んで話しをしたものだった」という。ポルトガル自国開催であったユーロ04の決勝戦でギリシャに敗れた後、大泣きしたロナウド。当時を知るものたちは、「幼少の時の彼を見ているようだった」と口を揃える。 ロナウドは傲慢だとか、自分勝手だと言われることもある。しかしそれは彼が誰にも負けたくないという強い気持ちをもっていて、それを前面に出したプレーをしたり、正直に思っていることを口に出すことから誤解されることも多いようだ。彼のコメントが反感を呼ぶことも少なくない。 4年前、チャンピオンズリーグ、対ディナモ・ザグレブ戦において、相手サポーターがロナウドに対して敵意丸出しでヤジを続けたことに対して、試合後「僕に対して敵意を見せたのは、僕が金持ちで、ハンサムで、偉大な選手であるからだろう」と発言し、大きな話題となったことがあった。 驚くべきことは、バロンドールをすでに3回、世界の頂点に上り詰めながらも、一向に彼のモチベーションが落ちないことだ。それはメッシも同じかもしれないが、少なくともロナウドの場合はメッシに対するライバル意識から来ているようだ。 昨年、三度目のバロンドールを受賞して、彼が行ったスピーチにおいても、「来年はメッシの4回に追いついてみせる」と言ってメッシを名指しにし、ライバル意識をむき出しにして見せた。 プロサッカー選手になるというのが夢だった彼は、スポルティングにてトップチームに上がってからは、口癖のようにしているのが「アンビサオン(英語のアンビション大望、野望という意味)」という言葉だ。サッカーの歴史に名前を残したいという気持ちが、毎年、高いモチベーションを維持させている。自分の前をいくメッシを何としても追い越したい。彼に向けられる敵意さえも糧にして、戦い続ける。 メッシがすごいということは否定しない。メッシはリーガにおける通算最多得点記録を更新した。初得点から記録達成までの得点シーンをWOWOWのドキュメンタリーで見たが、252ゴールすべてが非凡なものであり、ゴラッソといえるものばかり。メッシが希代の天才であることを強く感じさせられた。こんなにすごい選手はおそらく生きている間には見ることはできないだろうとも思う。 メッシは天才、ロナウドは努力の人。ロナウドはひたすらシュートを打ち続けるので、「あれだけ数打ちゃ、入って当たり前」と悪口を言う人もいる。高いプロ意識を持ち、強い身体能力を活かし、高レベルなプレーを続けているロナウドはとても魅力的だ。努力を惜しまず、ひたむきにサッカーに向かい合う姿勢にも好感が持てる。それだから、やはりロナウドをベストプレーヤーだと思うのだ。彼の野望がつきない限り、彼はトップの座に君臨し続けるはずだ。