バイエルンがライバルの「救済ゲーム」を開催 同業者は潰さない。ドイツらしい熱い話と矛盾

Text 塚越始 / Tsukakoshi Hajime

「『救済ゲーム』開催のお知らせ」

ん??? バイエルン・ミュンヘンが、代表を務めるサカノワ社に、ドイツ語のプレスリリースを届けてくれる。以前にドイツに住んでいたり、懇意にしていたドイツ人ライターがバイエルンのスタッフになっていたり、いろいろ関係を築けて、時々ビッグニュースが配信されるので、貴重なソースにもなっている。

 そして今回、ドイツ3部にまで降格した名門1.FCカイザースラウテルンと5月27日に試合をするという連絡が来た。

当地で何か災害や惨事が起きたか? そんな話は聞いたことがない。

 すると、その「救済」は文字通り、サッカーチームのカイザースラウテルンを救うための試合を、バイエルンが行うというのだ。

 会場はカイザースラウテルンのホーム、2006年のドイツW杯の会場でもあるフリッツヴァルターシュタディオン。確かに2012年までは、ブンデスリーガ1部で戦っていた。しかし瞬く間に表舞台から消えてしまった。3部リーグで戦うクラブライセンスをも剥奪される可能性があるという。

 ドイツらしい完全なる主従関係。でもカイザースラウテルンとしては、まさに背に腹は代えられず、藁をもすがる状況下とあって、利害関係は一致する。

 ただ、いつか訪れる未来、上(今回であればバイエルン)が下(カイザースラウテル)にスネを蹴られて躓く事態も、意外とよく起きる。ブラジルW杯準決勝、ドイツ代表がブラジル代表を木端微塵に打ち砕き、調子に乗っていたら、ロシアW杯ではまさかのグルーステージ敗退を喫したように。ドイツあるある。

 でも、よくよく考えると……いい話だなと思う。チームカラーが同じ赤色だし、あんなに憎かったけど、ブンデスリーガにいないと寂しいわ、という本音。同情するぐらいだったら金をやる、というキッパリとした現実主義。再び力をつけたとしたら、ピッチ上では全力で叩き潰しにいくぞという矛盾。ただ、同業者は徹底的には潰さない。

おそらく敵は全くの別業界。もしかすると週末に世界で一番人(観客)を集めるドイツのサッカー界は、意識的か無意識か分からないが、“余暇を楽しむための業界”が芽を出すたび、ぶっ潰してきたのではないだろうか。いまだにサッカーぐらいしか週末の楽しみがない。それで十分満足しているということ? バイエルンにとっては今回が三度目という「救済ゲーム」は奥深くて、いろいろ考えさせられる。

塚越始(つかこし・はじめ)/ Tsukakoshi Hajime

SAKANOWA(株)代表取締役。2018年からAJPS本会員。ライティング、編集、ドイツ語翻訳、メディアアドバイザー。宮古島の宮古新報の記者、サッカーダイジェスト編集部・記者を経て2017年にフリーに。サッカーの国内・海外情報サイト「サカノワ」を立ち上げる。編集部時代は浦和レッズ、FC東京、ジュビロ磐田など担当。宮古島では上里一将(FC琉球)が沖縄県選抜に選ばれた時に取材していて、私は久松中コーチ、上里は平良中の選手として試合もしている。ご相談・ご依頼はお気軽に、> sakanowainfo@gmail.comまで!