浦和レッズに現れた新たな本物のストライカー。レオナルドが秘めるチームの伸びしろ

Text 神谷正明 / Masaaki Kamiya

「自分の形があって、点をたくさん取れる選手はカテゴリーなんて関係ない。下部リーグだろうが、トップリーグだろうが点を取る」

以前、元代表だった人からそんな話を聞いたことがあるが、浦和レッズのレオナルドはまさにそういった選手だ。

2018年、まだ海の物とも山の物ともつかぬ若者はブラジルから海を渡り、元浦和の岡野雅行氏がGMを務めるガイナーレ鳥取に加入すると、1年目のJ3で24得点というハイスコアをたたき出して得点王に。翌年はアルビレックス新潟に移籍したが、1つカテゴリーの上がったJ2でも決定力に陰りは見られず、前年より4点多い28得点を奪って再び得点王になった。

そして2020年、戦う舞台のレベルをまた1つ上げてJ1でプレーしているが、ここまでのところリーグ戦10試合出場で8得点と、やはりカテゴリーの壁を感じさせない。Jリーグ史上初の3カテゴリー得点王の可能性を十分に秘めている。

レオナルドは、久々にレッズに出てきた本物のストライカーだ。

そう言うと、「興梠慎三がいるじゃないか」との批判を受けそうだが、たしかにその通りだ。レッズでは長らく、興梠がエースとして圧倒的な存在感を放っている。ただ、彼の本来の特性はチャンスメーカーの色が強いアタッカーだ。本人も「僕はストライカーじゃない」と話したことがあるように、必ずしもゴールにこだわっているわけではない。もともとは、プロとして生きていく上で手本にした柳沢敦氏の系譜に連なるタイプだ。

それでも、興梠がゴールを取り続けられたのは、持って生まれた類いまれなる資質によるところが大きい。狭き門を突破してプロになったエリートたちをして「慎三は天才」と言わしめる運動神経の持ち主は、例えばゴルフをやらせても玄人はだしで、どんなスポーツでも簡単にこなしてしまう。

興梠はその天性の才能でチームに不足していた“ゴールを決める人”の役目にアジャストしていったのだ。簡単に言えば“なんでもできる人”であり、興梠の中で“自分がシュートを打つ”という選択は勝つために数多くあるオプションのうちの1つに過ぎず、最前線でプレーしている時はその比重を高める。

レオナルドは“ゴールから逆算してプレーする”というストライカー指向が強い。それは、自分がシュートを決めることしか興味がない、という意味ではない。パスを出すべき局面ではパスも出す。

実際、8月19日のガンバ大阪戦では関根貴大のゴールをお膳立てし、「関根の方がいい状況だったから」と話している。レオナルドはプレーの優先順位をはっきりさせていて、まず自分が良い形で打つことを考える、それがダメそうなら次の手を選ぶ、と考えが整理されている。

強みを出せるエリアもはっきりしている。ペナルティエリア周辺だ。スピードがあるわけでも、キレのあるドリブルで敵を蹂躙できるわけでもない。だから、例えばカウンターの場面でボールを持っても、それが相手ゴールから遠かったら無理して仕掛けることはせず、スピードダウンして確実にキープし、味方のサポートを待つ。できないことはやらない。

その代わり、“自分のできること”のクオリティを突きつめている。

J3時代から今年までのゴールを見ればわかりやすいが、レオナルドの得点パターンはだいたい決まっている。PKやこぼれ球を押し込むシーンを除けば、ほとんどが味方のパスにダイレクトに合わせて押し込む形か、ボールを少しズラしてDFの横にシュートコースを作ってコンパクトに足を振り切る形だ。

いきなり「ドン」か、「トン、ズドン」。その2つがレオナルドのゴールパターンである。

興梠のように「難しそうなことを難しそうに決める」というのはやらず、プレー自体はとてもシンプル。自分の形で打てるところにボールを置いて、狙いどおりのところに蹴る。止めて、蹴る。簡単に言えばそれだけ。ただし、その基本技術が抜群に優れている。

レオナルドはシュートをふかすことがほとんどない。どこから打っても、コースを突いた低弾道のシュートが飛んでいく。その精度が抜きん出ているので、対峙するDFを完全に剥がさなくても、狭くてもシュートを打てるコースさえ作れれば、それで勝ちだ。少しだけズレて打つ、というのは、相手GKからしたら味方の体でブラインドになったところから強烈なシュートが飛んでくる、という反応が遅れがちな形にもなるので、そのパターンはレオナルドの大きな武器になっている。

ゴール前でボールを持てば、かなりの確率で決めてくれる。だから、勝ちたければ、レオナルドになるべく多くボールを運べばいい。レッズの新たな得点源と相性のいいFW武藤雄樹も「今のレッズのサッカーだと、レオナルドがゴール前で待つシーンが多くなってくるので、そこに届けられるかというのは狙いになると思う」と指摘する。

ただ現状、チーム内でその方法論はまだ確立されてない。12ゴールで得点ランキングトップのオルンガが41本のシュートを打っているのに対し、8ゴールの2位レオナルドは約半数の21本。シュート数で言えば、7ゴールの小林悠(28本)とエヴェラウド(34本)、6ゴールのレアンドロ(22本)、5ゴールの鈴木武蔵(23本)、レアンドロ・ダミアン(23本)よりも少ない。4ゴールのドウグラスは34本、レアンドロ・ペレイラは34本もカウントしている。

それは翻って考えれば、チームとして伸びしろがまだあるということでもある。得点源に十分なチャンスを創出できていない状況でも、ストライカーは仕事をしてくれている。最前線で待っている点取り屋にシュートチャンスを多く供給できるメカニズムを構築できれば、レッズも、レオナルドもさらなる高みへと登っていける。

(「DAZN NEWS 2020年8月22日」掲載)

神谷正明(かみや まさあき)/ Masaaki Kamiya

大学卒業後、フリーライターとして活動しながらIT会社でスポーツメディアに関わり、2006年にワールドカップに行くため完全フリーランスに。以降、浦和レッズ、日本代表を中心にサッカーを取材。2016年に会社設立。現在は大手サイトのスポーツページ編集業務も担い、野球など各種スポーツへの関与が増えている。