角田裕毅の日本GP、レッドブル初レースをどう評価する?「自信を深めることができた」12位完走の鈴鹿に始まる大きな夢の続き

Text 尾張正博 / Masahiro Owari

 

 日本のモータースポーツの聖地とも言える鈴鹿で、師弟が感激の再会を果たした。

 F1のトップチームのひとつであるレッドブルに移籍した角田裕毅と、かつてホンダF1復活の立役者の一人となった山本雅史元マネージングディレクターだ。

 日本GPが開幕した4月4日の前日、レッドブルのホスピタリティハウスを訪れた山本に、角田はこう言った。

「鈴鹿で山本さんと会えてうれしいです。F3やF2時代に山本さんと語り合っていた夢が、ようやく実現しました」

🔳F1への伴走者

 いまから7年前の2018年の夏、日本でホンダの支援を受けてFIA-F4選手権を戦っていた角田に目をつけたのが山本だった。この年の6月、ホンダはパワーユニットサプライヤーとしてトロロッソだけでなく、19年からレッドブルとも提携を開始すると発表。同時に日本人ドライバーの育成も共同でスタートすることになった。そのドライバー選考を行うためにホンダが白羽の矢を立てたのが角田だった。

 ハンガリーで行われたF3の合同テストには現役のF3ドライバーたちも集結。その中で角田は現役F3ドライバーをしのぐ走りを披露し、19年からのヨーロッパでのF3参戦の切符を掴み取り、翌20年にF2にステップアップした。その2年間、ヨーロッパで折に触れて角田にさまざまな助言を行っていたのが山本だった。2人は夢を語り合った。F1ドライバーになるだけでなく、トップチームで走ること。その夢を角田は、今年ようやく叶えた。

 だが、今回の移籍を不安視する声も少なくなかった。角田の前にレッドブルのドライバーを務めていたリアム・ローソンが、開幕2戦で実力を出しきれなかったことがドライバー交代の要因となったからだ。24年にレーシングブルズ(RB)で角田のチームメートだったローソンの手に負えないマシンを、角田が操ることができるのかという不安だ。

 その心配は日本GPが開幕して、すぐに杞憂だったと判明した。レッドブルの今季のマシン「RB21」のステアリングを初めて握ったにも関わらず、角田は乗りこなして、FP1の60分間のセッションを6番手で終えたからだ。チームメートのマックス・フェルスタッペンとのタイムはほぼコンマ1秒。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も「予想していたよりも、いい仕事をしていた」と角田を高く評価した。

 しかし、今年の日本GPでは、マシンが路面を擦って発生する火花が春風に乗ってランオフエリアの芝生を燃やすという火災が4度も発生。練習走行はその度に短縮され、ドライバーたちは準備不足のまま予選に臨まなければならない事態となった。移籍したばかりの角田は、その影響を最も大きく受けた。RB21を理解する前に開始された予選で、角田はQ1を突破したもののQ2で敗退し、予選15位に終わった。

 それでも、レッドブルの角田への評価が下がることはなかった。

「ユウキはQ1までは順調だった。最後のアタックで第1セクターでミスしてコンマ数秒を失っていなければ、余裕でQ3へ進出していただろう」

 レッドブルのガレージで仕事をしているホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)も角田の成長を認めている。折原はレッドブルの前に、アルファタウリとRBで約2年間、角田と一緒にレースをしていた。数カ月ぶりに再会した角田は以前と違っていた。

「23年から24年にかけても成長しましたが、今年はさらに大きく成長しているように感じます。例えばセッティングに関しては、自分から意見を言って、エンジニアと会話しながら作業を進めていました。チームのほうも裕毅のコメントをよく聞いて、それに従ってセットアップを進めていました。結構、裕毅がイニシアチブをとっていたのが印象的でした」

 マックス・フェルスタッペンが絶対的なエースに君臨するレッドブルで、彼のチームメート側にそのような姿勢はあまり見られなかったという。チームの受け止め方はポジティブだ。

🔳トップチームで叶える夢

 日曜日のレースも角田にとって厳しい戦いとなった。それは雨が降ることを想定したセットアップで予選を戦っていたからだ。現在のF1では予選後のセットアップ変更が原則的にできない。そのためドライコンディションとなった日曜日のレースで角田のRB21はストレートスピードが伸びず、順位をなかなか上げられなかった。それでも、角田はレッドブルでのレースを1周たりとも無駄にすることなく、毎周のように新しい発見を見つけては次はどのように改善するかを考えながら走行していた。

「クルマを理解する点では日本GPが始まる前から大きく前進し、自信を深めることができました。今日学んだことは今後に大きく役立つはず。焦らず一歩一歩着実にステップアップしていきたい」

 レース後にそうコメントした角田と山本の夢の話には続きがある。

「トップチームへ行って、日本人として、まだだれも成し遂げていないことをやろう」

 レッドブルでの緒戦は12位完走に終わった。だが、これで終わりではない。角田のレッドブルでのレース人生は始まったばかり。角田が山本と語った夢の続きを見届けたい。

 

(2025/04/08 Number Web掲載)

 

尾張正博(おわり まさひろ)/F1ジャーナリスト

1964年、仙台市生まれ。1993年にフリーランスとしてF1の取材を開始。F1速報誌「GPX」の編集長を務めた後、再びフリーランスに。コロナ禍で行われた2021年に日本人記者として唯一人、F1を全戦現場取材し、2022年3月に「歓喜」(インプレス)を上梓した。Number 、F1速報、auto sports Webなどに寄稿。主な著書に「トヨタF1、最後の一年」(二玄社)がある。