「都立スポーツ施設の今を体験できるメディアツアー」 取材レポート

 コロナ禍のため1年延期され、ほとんどの会場で無観客開催となった2020東京オリンピック・パラリンピックから約5年の歳月が経過しました。大会のために建設された施設のうち、東京都が建設し、現在もスポーツ振興の拠点として活用されている施設は計6カ所。そのうちの2カ所を体験できるメディアツアーが開催されたので、大会後の現状と活用の広がりについて取材してきました。

【カヌー・スラロームセンター(江戸川区)】

 1カ所目はカヌー(スラローム)競技の会場として整備されたカヌー・スラロームセンター。日本初の人工カヌースラロームコースとして葛西臨海公園の西側に建設され、2019年に完成しました。今回のツアーではメディア関係者によるラフティング体験と、江戸川区立上小岩第二小学校の体験学習が行われました。

 人工カヌースラロームコースは東京オリンピック開催時のまま運用されており、通常は「ラフティングツアー」の名称でスタッフ同乗のもと全長200m、高低差4.5mのカヌースラロームコースを体験することができます。平均勾配が約2%、高低差と曲線に富んだコースは迫力十分。ゴムボートに同乗するスタッフがボートを巧みにコントロールするほか、万が一の落水に備えコースサイドにもスタッフが配置されているため、安全にラフティングを体験することができます。

高低差があるだけにボートの舳先がかなり上を向いた瞬間
コースをまっすぐ進むことができず横向きになってしまったボート

 会場近隣の江戸川区立上小岩第二小学校の児童による校外学習では、スタッフの付き添いによるコース見学と遊覧ラフティング体験が行われました。

 子どもたちの様子をにこやかに見守っておられた小野塚良朋校長の「江戸川区は2つの川と海に三方を囲まれているので、幼い頃から水に触れる体験が安全にできることがありがたい。そして、世界に誇れる施設が江戸川区にあることが子どもたちの郷土愛を育む、街を愛する気持ちにつながればいいなと思っています。何よりもウォータースポーツに親しむことができるのがいいですね」というコメントが印象的でした。

遊覧ラフティング体験を前にヘルメットを被る児童
フィニッシュプールエリアを使ってラフティング体験
地元に世界的な競技場があることと、子どもたちの親水体験の意義を語る小野塚良朋校長

【海の森水上競技場(江東区)】

 2カ所目はゲートブリッジに程近い、海の森公園内に整備された海の森水上競技場に移動。ここではパラリンピアン(パリパラリンピックKLI6位入賞)の瀬立モニカ選手(江東区カヌー協会所属)のインタビューと東京消防庁水難救助隊による水難救助訓練、東京ベイeSGプロジェクトの模様が公開されました。

 江戸川区で生まれ育ち、練習で海の森水上競技場を使うという瀬立選手は、「2020年(東京オリンピック・パラリンピック)をきっかけに整備された施設が、世界へ進出する選手たちの競技力向上の場として活用されていることは本当に大きなレガシー」と語り、車いすで利用しやすいトイレの充実ぶりや空港からのアクセスの良さなど利便性を挙げていました。

パラカヌーで3大会連続パラリンピックに出場した江東区出身の瀬立モニカ選手

 続いて、東京消防庁水難救助隊による水難救助訓練。多くの河川や港湾を有する東京都ですが、東京消防庁には河川や港湾における救助活動を行う専門部隊・水難救助隊があり、日夜、都民の安全のために活動していることは意外に知られていません。この日は水没者2名を救助する訓練が行われましたが、コースの両端に水門が配置されている水上競技場は救助訓練の場としても利便性が高く、年間40回程度、この場所で訓練を実施しているそうです。

 隊員の方にお話を伺ったところ、「消防署の近くにある河川で訓練を実施することもあるが、船舶の往来がないここは、潜水作業を伴う訓練も安全に実施できるのがメリット」とのこと。スポーツ競技のために作られた施設が全く別の形で活用されているとは全く知りませんでした。

救命ボートで目標地点に接近。国際信号旗A旗ブイを設定後、一斉に潜水する水難救助隊の隊員たち
水中で助けを求める要救助者をフローティング担架で無事ボートに収容

 東京ベイeSGプロジェクトは、最先端テクノロジーの社会実装に取り組む事業者を後押しするプロジェクトで、海の森水上競技場内の敷地が事業者に提供され、さまざまな実験が行われています。

 この日、紹介されたのは水上ドローン、海洋プラのリサイクル、環境に配慮した非接触給電舗装、CO2回収、自動運転実証、循環型トイレの都市実装、都市型菜園による新たな農業という7つのテーマ。いずれも競技場の広大な敷地なくしては実現できなかった実験です。今後どのような形で社会実装が進むのか? 競技場がスポーツだけでなく、新しいテクノロジーが育まれる場所となっていることに明るい未来を感じた、今回のメディアツアーでした。

取材協力:東京都スポーツ推進本部、東京都スタートアップ戦略推進本部

(レポート/写真:小城崇史)

小城 崇史(こじょう たかふみ)/フォトグラファー

1962年東京生まれ。写真家。1996年より国内外のスポーツシーンを撮影し続ける一方、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックでは組織委員会フォトマネージャーとして活動。現在もスポーツの現場に立ち続ける一方で、作家活動においてはスポーツ・古典芸能・Cityscapeをテーマとした個展を開催。 公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、一般社団法人日本スポーツプレス協会(AJPS)監事、一般社団法人日本写真著作権協会(JPCA)理事、カメラグランプリ特別選考委員(202420252026