実は「やったことのないルーティーン」で金! スノボ戸塚優斗のメダル秘話“ネイル”“国歌で脱帽”だけじゃなく…「自分のヒーロー」平野歩夢の影響

Text 矢内由美子 / Yumiko Yanai

 表彰台に上がる前から涙があふれ出ていた。一度拭ったが、「ゴールドメダリスト」として名前がアナウンスされると、もう止まらなくなっていた。

「うれし涙は初めてなんじゃないかなっていうぐらい」

ミラノ・コルティナ五輪スノーボード男子ハーフパイプ決勝。金メダルに輝いたのは、2回目のランで95.00点を出した戸塚優斗(ヨネックス)だ。

「自分のヒーローだと思って練習でも大会でも常に影響を受けながらやってきている」という平野歩夢(TOKIOインカラミ)に続く日本人2大会連続の金メダル。

「夢だったので、国歌が流れているときは『夢なのかな』というくらい信じられない気持ちでした。いろいろな大会で苦しんできた記憶を思い出して、やってきて良かったなと思いました」

 しみじみと喜びを語った。

■優勝へ導いた持ち味とは

 金メダルを射止めたのは誰よりも豊富な引き出しと、とことんまで詰めた戦略、そして自分を信じる強い気持ちがあったからだ。

 五輪開幕直前、戸塚は決勝のルーティーンをこれまでやってきた内容から変えることを決めた。

 1発目は「キャブダブルコーク1440」。戸塚はスイッチバックから入る選手が増えていることが高得点が出にくくなっている要因なのではないかという採点の傾向を感じ取り、コーチと相談して決断した。

「普段はスイッチバックから入っているんですけど、その中でオリンピックという舞台でキャブから入るという選択肢を取った自分をまず褒めたいし、そのランを自分の納得いくレベルで決められたのもすごく成長を感じました」

 16歳で初出場した18年平昌五輪は決勝2回目に転倒して11位。22年北京五輪は、予選時と比べて決勝でパイプが2センチ高くなったことにも対応しきれず10位。「やめたい」と苦しむこともあったが、子どもの頃から抱いていた夢を追い続けてここまできた。

■これまでやったことのないルーティーンで

 ミラノ・コルティナ五輪決勝でのベストスコアは2回目だったが、1回目のランで最後までルーティーンをしっかりと滑りきった時点でガッツポーズが出ていた。

「今まで五輪の決勝で自分の納得いく滑りをしたことが全くなかったので、1本目決めた瞬間にやっとしっかり自分のランを決められたと思い、すごく嬉しかったんです。やっと決めたという気持ちでいっぱいで、勝手にガッツポーズが出ちゃいました」

 自信を持っていたトリプルのコンビネーションも決めた。

「フロントサイドトリプルは全く問題なくて、気持ち的にも怖さも感じないし、難しさも感じないレベルまで来ています」と言うが、技術面以上に成長を感じていたのは自分を信じる力だ。

「きょうのルーティーンはこれまでやったことがないものなので、点数がどれくらい出るか全く分からない状況。これで本当に勝てるのかも分からないし、どう評価されるのかも分からなかった。それでも(決断を)信じてこの舞台でできた。それが一番嬉しいです」

 もちろん、それができたのは16歳からナショナルチームに入って積み上げてきた経験があるから。

「いろいろなルーティーンを組み替えられるのは自分の最大の強み。その強みを今回最大に活かして獲れた金メダルなのかなと思いました」

 そう言って胸を張った。

国旗掲揚で脱帽、金銀ネイル、ミセスの大ファン

 表彰式では折り目正しい一面を見せる場面があった。「君が代」の音楽が流れ始めようとした時。被っていたニット帽をすぐさま脱いだ。その様子を見ていた銅メダルの山田琉聖(チームJWSC)と銀メダルのスコッティ・ジェームズ(オーストラリア)も脱帽。

 戸塚は「(ハーフパイプの)公開練習の日にビッグエアで(村瀬)心椛選手が優勝して、僕はリフトの上にいたのですが、それ(君が代)が聞こえて(グッと)くるものもあったし感動しました。きょうは自分の優勝で流せたことがすごく光栄だったし、日の丸を揚げられたのは嬉しかったので、(脱帽は)敬意を込めた行動でした」と説明した。

 手指には金銀に輝くネイル。決勝前夜に塗ってもらい、金メダルを獲れるように左右1本ずつを金色にした。そして、計5本の指輪。Mrs. GREEN APPLEの大森元貴の大ファンで見た目も寄せているというお茶目な一面もある。

 メダルの重さを聞かれると、「めちゃくちゃ重いです」と言って一拍おいてからこう続けた。

「自分の滑りができない時期も長く続きましたが、やめようと思った時にチームの仲間やコーチ、母親といった人たちに支えられてここまで来ました。(単純な)重さだけじゃなくて、いろいろな人の気持ちだったり、支えてもらった感謝の気持ちが詰まっていて、本当に重いものになりました」

 24歳の新王者が誕生した。

矢内由美子(やない・ゆみこ)/ライター

スポーツライター。1966623日、北海道生まれ。北海道大卒業後にスポーツニッポン新聞社に入社し、テニス、五輪、サッカーなどを担当。’06年に退社し、以後フリーランスとして活動。Jリーグ浦和レッズオフィシャルメディアスタッフ『REDSTOMORROW』編集長を務める。最新著書は『浦和レッズ、技術を教えないサッカー教室』(竹書房/2025年)。五輪取材は夏冬合わせて12回、ワールドカップ取材は2026年北中米大会で7回目。

2026/2/16 文藝春秋 Number Web掲載)

出典元:https://number.bunshun.jp/articles/-/869324