カメラグランプリ 特別選考委員が見た新製品2025-2026 / Vol.2 ソニー α7 V(2025年12月発売)「元祖フルサイズミラーレス、第五世代の現在地」

1.最初に

今でこそ、当たり前の選択肢と思われているフルサイズミラーレスカメラだが、2012年に初めて登場した時は「ついに登場したか」という驚きと「果たしてどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか?」という期待と不安が入り混じった複雑な感情を抱いたことを思い出す。あれから13年の歳月が過ぎ、市場を見渡すとリリースされるカメラはもちろん、レンズですら「ミラーレス用」であることが当たり前になった。こんな日が訪れることをあの時は全く想像できなかったし、レンズ交換式フルサイズミラーレスカメラの第一号がソニーα7であることを鮮明に覚えているだけに、その第五世代となるこのプロダクトがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、とても興味深いものがある。

上位機種と統一されたカメラ背面右側の操作部

2.実力の片鱗は二世代前から?

カメラにつないだLANケーブルを使っての画像伝送が当たり前になった2012年ロンドン、熾烈なシェア争いが続いた2016年リオデジャネイロと、五輪や他の国際大会における動向を注視する一方で、個人的に「次はミラーレス」という思いを抱いていた私は、一眼レフカメラを中心としたシステムを運用しつつ、2017年からは自腹でミラーレスカメラを購入し、サッカー取材などの現場で実際に運用して「この先どうなるのか」について、自分なりの検証を進めていた。当時はまだスポーツ撮影に適した交換レンズ(大口径超望遠レンズと望遠ズームレンズ)が揃っておらず、マウントアダプターを介して一眼レフ用のレンズを使っての検証だったが、この時驚愕したのが、普及機とされたソニーα7 III(2018年3月発売)が見せたパフォーマンスだった。マウントアダプターという「一応つながるけれどそこから先は保証しません」というツールを使ってもなお、動く被写体に対するAF性能が大きく向上していて、そう遠くない将来、従来のシステムを凌駕することを確信したからだ。

インターフェースはUSB-C端子が2個となった。PDによる給電や電池の充電も可能だ

3.フルサイズミラーレスの「現場力」

スポーツという、人間がその能力の限界に挑む姿を被写体とするにあたって昔も今も変わらず求められるのは、限られた瞬間にどれだけ対応できるかの瞬発力であることは論を待たない話だが、カメラのデジタル化プロセスで更に大切なのが「次なるシャッターチャンスに対する対応力」具体的には「とどまることなく動くこと」だということは意外に知られていない。スペック上ではたくさん撮れますとなっていても、一度フルになったバッファが開放されるまでは次撮れませんとか、設定を変えたら通常設定に戻すのに時間がかかりますとかはもう論外なのだ。「カメラが止まらないための準備」が、フィルムの時代は極めてシンプルだったのに、そこにストレスが生じるのはデジタル時代の大きなハードルだと感じているのだが、そのことを理解してもらえないことが(特にミラーレスカメラの初期には)多かっただけに、果たしてこのカメラはどうなのか。それは現場で使える・使えないの判断にも直結する話だけに、チェックする上では気を抜けないポイントでもある。

グリップ形状は上位機種と同一のものとなった

4.全ての機能を使いこなせるのか?と思うくらいに充実した性能

フルサイズミラーレス第五世代となるこのプロダクトに触れて感心したのは「ストレスを感じる瞬間がほぼない」ことだった。「ほぼ」と書いたのは、私が同じαでも上位機種であるα1 IIとα9 IIIを日常の仕事で使っており、表面的なスペックでは同じ数値が表記されているものの、それらと「全く同じとはいえない」からで、よほどシビアな条件の現場に臨まない限り、このカメラで困ることはまずない。今回新たに搭載されたリアルタイム認識AFは対応被写体の種類も多く、最高値秒間30コマを実現したブラックアウトフリー高速連続撮影はストレスのない撮影を可能にした。グリップデザインや4軸マルチアングル液晶モニターも上位機種同等のものとなり、現場でカメラを持ち替えても違和感なく使えるのは、機種によるクラス分けという考え方がないソニーらしさなのかもしれない。

羽田空港に着陸する機体を城南島海浜公園から狙う。機体の動きをトレースすることで正確に合焦していることが分かる
隅田川テラスに憩うユリカモメ。被写体認識AFが効果的に動作しシャープな合焦を実現している
かつての引き込み線に使われていた橋が再生され、夜景スポットへと変貌を遂げた。長秒時露光でもノイズの少ないすっきりした絵が得られるのは大きな進歩だ
年も明けるとイルミネーションの名所も人はまばらだ。12月の喧噪がウソのように静まりかえった瞬間を捉えた

5.上位機種との差異は

「シビアな条件の現場」と書いたが、ミラーレスカメラ特有のローリングシャッター現象から完全に解放されたわけではない。それを求めるなら「9系か1系を買ってください」ということになるのだろうが(実際に自分自身もそれで解決を図っている)、他社が様々な技術でその部分を補完してきていることを考えると、もう少し違う答えが見たかった気がするのは私自身がソニーαユーザーだからだろうか。また9系、1系のカメラと異なり左肩部のコマンドダイヤルがないため、一部の設定変更はメニュー画面から行わなければならない。マイメニュー登録や操作カスタマイズで操作性を自分好みに変えることも可能だが、一つの現場でカメラを複数台使うユーザーもいることを考えると、もう少し簡単な解決手段がほしい。

ローリングシャッター実例。カメラを振るのと反対方向に動く被写体が通るとこのように歪む
カメラ左肩部の様子。上位機種にはあるダイヤルがこのカメラにはない

6.他社機種との差異、そしてぜひ試したいアプリ

EVFやLCDの再現性について定評のあったソニーだが、今回他社機を経験したあとにこのカメラのEVF・LCDを見ると「再現に誇張はないけど物足りない」印象を受けた。それだけこの分野における技術が進歩したということかと思うが、ファインダーは写真家と被写体を繋ぐ重要なデバイスだけに、評価を下すのはとても悩ましいところだ。

ちなみにソニーαにはスマホやタブレット端末からカメラをコントロールすることのできるアプリ「Creator’s App」が用意されており(無料)、Bluetoothを使った通信を行うことでスマホやタブレットをリモコン代わりに使うことができる。電波式外部リモコンとの動作比較は経験がないため断言は避けるが、レリーズショックを避けたい撮影や、カメラから離れた場所で画像を確認しながらシャッターを切るなど、カメラに触れることなく撮影ができるアプリとして完成度が非常に高いので、対応機種をお持ちの方は是非試してほしい。

Creator’s Appのスクリーンショット

7.フルサイズミラーレスの先駆者はいま(むすびに代えて)

試用機をお預かりしている期間中、スポーツ取材の機会がなかったため今回の作例は「スポーツ以外の動きもの」を中心に撮影しているが、スポーツ以外にもカメラのレスポンシビリティが求められる被写体は世の中にたくさんある。ソニーがこのカメラに、上位機種に導入した技術を惜しみなくつぎ込んでいるのはそのことをよく理解しているからではないかと思うと共に、このカメラも、これからスポーツを撮り始める人の入口となってくれることに期待したい。年寄りの妄想と笑われるかもしれないが、写真に目覚めた少年少女が、友人・知人のスポーツを撮ることでスポーツ写真に目覚めるなんて展開を期待したいし、その期待に応えるのがこのカメラだったらいいなと思うのだ。

 

(写真・文 :小城崇史/カメラグランプリ2026特別選考委員/AJPSフォトグラファー)

<協力>

ソニーマーケティング株式会社(機材)

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