NFLドラフトを待つ「Tokyo Toe」。ハワイ大キッカー・松澤寛政を追いかけて

Text 北川直樹 / Naoki Kitagawa

 4月23日に始まるNFLドラフトで、日本人として初めて指名される可能性を持つ選手がいる。ハワイ大学キッカーの松澤寛政、27歳。愛称は”Tokyo Toe”。

 2025年から計4回、延べ数時間にわたって松澤を取材してきた。最初のインタビューは、ハワイ大での最終学年を迎える前の2025年1月。最後に会ったのは、ドラフトを3週間後に控えた2026年3月末だった。

 松澤のキャリアは、なかなか聞いたことのない類のものだ。千葉の高校でサッカーをやっていた青年が、大学受験に失敗し、20歳で渡米先のNFL開幕戦を観て「NFLのキッカーになる」と決めた。コーチはいない。YouTubeの動画だけが教科書で、ひとり公園でボールを蹴った。

ステーキハウスのアルバイトで貯めた金で、オハイオのコミュニティカレッジへ。英語は「Yes」と「No」しか話せなかった。そしてハワイ大学に編入し、カレッジ最高峰の舞台での挑戦を掴んだ。

 公園での自主練開始から7年。2025年シーズンのフィールドゴール成功率は96.2%(レギュラーシーズン)。シーズン開幕から25連続成功でNCAA最上位カテゴリーのFBS記録に並び、ハワイ大学史上初のコンセンサス・オールアメリカンに選出された。

 4度の取材を通じて最も印象に残っているのは、松澤の「重心の低さ」だ。謙虚ということばでは、彼のパーソナリティを表せない。全米トップの成績を残しても、ESPN やFox Sportsに大きく取り上げられても、「まだ本当に何も達成してないので」と言い切る。歴史的なことを成し遂げようとしているという自覚が、おそらく本人にはない。または、そこに関心を持っていない。あるのは「次の一本を決める」というシンプルな思考だけだ。

 3月末の取材では、カリフォルニアでの孤独なトレーニング生活について話を聞いた。ハワイ大時代は練習場にチームメイトがいて、試合ではスタジアムが揺れた。今はそのすべてがない。成功しても失敗しても、ボールは静かに弧を描いて飛んでいくだけだ。その環境について「ちょっと辛抱ですね」とだけ言って笑った。

 北米4大プロスポーツリーグで、いまだに日本人選手が誕生していないのはNFLだけだ。松澤がその扉を開けるかどうかは、これから決まる。ドラフト指名、フリーエージェント契約、インターナショナル・プレイヤー・パスウェイ(IPP、国際的なアスリート向けのプログラム)枠でのプラクティススクワッド入りと、NFLに辿り着くルートは複数ある。

 どんな結果になるにせよ、千葉の公園でYouTubeを見ながらボールを蹴り始めた20歳の青年が、ここまで来たこと自体が一つの物語だ。ドラフト、そしてその先を、引き続き追いかけていきたい。

松澤寛政(まつざわ・かんせい) 1999年1月8日生まれ、千葉県出身。幕張総合高校サッカー部でFWとして県ベスト8。大学受験に2度失敗後、渡米先でのNFL観戦をきっかけにキッカーを志す。YouTubeで独学し、ステーキハウスのアルバイトで渡米資金を貯めて2022年にオハイオ州ホッキングカレッジへ。2023年にハワイ大学編入。2025年シーズン、FG成功率96.2%(レギュラーシーズン25/26)、開幕から25連続成功でFBS記録タイ。ハワイ大学史上初のコンセンサスオールアメリカン。グローザ賞(全米最優秀キッカー)ファイナリスト。NFLのIPPプログラムに選出され、2026年2月のNFLコンバインに参加。愛称は”Tokyo Toe”。NFLドラフトは4月23日開始。

写真=ハワイ大学提供
写真=ハワイ大学提供

北川直樹(きたがわ なおき)/フォトグラファー・ライター

1988年1月生まれ。神奈川県立港南台高校(現・横浜栄高校)、立教大学現代心理学部映像身体学科卒。アメリカンフットボールのプレイ経験をもとに、スポーツ報道の道へ。好きなスポーツは、アメリカンフットボールとボクシング。フリーランスのフォトグラファー、ライターとして活動中。日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員。