さらば、スピードスター

 

 2021年2月20日、1か月遅れで迎えたトップリーグ開幕戦・パナソニックワイルドナイツ対リコーブラックラムズ。

 試合後半パナソニックワイルドナイツ・WTB福岡堅樹は相手のパスのタイミングを見切ってボールをインターセプト、そのままトップスピードでインゴールに飛び込んできた。

 今シーズン限りでの引退を表明している彼のラストシーズンでの活躍を予感させる鮮やかなトライだった。

 

 福岡堅樹を初めて撮影したのは彼が筑波大学の1年生だった時だろうか。

 物静かな飄々とした風貌と雰囲気だが、ボールが彼に渡るやいきなりトップスピードにギアが入るようなダッシュ、不利な体勢でもボールをキープするフィジカルの強さ、意表を突くポジショニングやゲームのあやを読むセンスなどこれまで撮影してきた吉田義人、大畑大介らとは違う新しいタイプのフィニッシャーの印象が強く残った。

 以来彼の出場する試合では彼のトライを期待しつつタッチライン際であるいはインゴールの後ろからカメラを構えるようになった。

 

 2021年5月23日、トップリーグプレーオフトーナメント決勝・パナソニックワイルドナイツ対サントリーサンゴリアス。

 19シーズンにわたるジャパンラグビートップリーグそして福岡堅樹にとってラストゲームである。

 共にシーズン無敗で臨んだ一戦、両チームとも持ち味を出し切った一進一退の攻防の末パナソニックがサントリーを31対26で下し5度目のそしてトップリーグ最後の栄冠に輝き、福岡もこの試合で1トライを挙げ有終を飾った。

 表彰セレモニーの後、彼はチームメイトと握手を交わし、スタンドのファンに別れを告げて笑顔でピッチを後にした。

 トップリーグで、日本代表のテストマッチで、そして2度のラグビーワールドカップで彼が挙げた数多のトライはラグビーを愛する人々の記憶から薄れることはない。

 さらば、忘れ得ぬスピードスター福岡堅樹。

 

 

撮影・文:井田新輔

1961年東京生まれ。明治大学政経学部卒。

4年間の会社員生活を経て1989年よりスポーツフォトグラファーとして活動を開始し、現在はラグビー、プロ・アマ野球を中心に撮影を行っている。 ラグビーワールドカップは1999年ウエールズ大会より6大会連続でフルカバー。

日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員。