「Life in the fast lane」 photo 古賀庸介

 

陽炎の向こうにコースが広がっている。今コースになっているのはその昔、湖の底だったという。

午前中なのに乾ききったコースはひび割れ、埃が舞い上がり荒野の決闘のワンシーンを彷彿とさせる光景が目の前に広がっていた。2日目の午前にすべてを賭け ていて準備した車両をスタートライン前に用意した。前日の走行でマイナートラブルがあったものの、調子が良かったのは覚えている。気温の低い今のうちにと 思う気持ちが焦りに繋がらなければ記録は狙えるはず。コースは泥が干上がり固まって割れているだけなので、パワーのある4輪車が走ればタイヤが空回りして 掘り起こしてしまい、コースコンディションは悪化してパワーの無い2輪は記録どころか轍から外れれば転倒の危険さえある。早いスタート順が来ないかと思っ ていると無線で次にスタートすると連絡があった。直前に走行した車両が巻き上げた埃でファインダーを見ても車両を確認出来ない数秒があったと同時に一気に 加速して目の前を通り過ぎ、計測地点を走り抜けていた。車のFMラジオから聞こえた場内アナウンスがワン・ナインティ・ファイヴマイルと伝えていた。車両 回収があるので到着地点に向かう。そこにクラスレコードとその場で伝えられたライダー佐伯真吾が力強く拳を掲げていた。彼の愛車に近づくと、計測地点前後 でブローしオイルが滲んだシリンダーヘッドはその役目をひっそりと終えていた。2014年2月このエンジンのオーバーホールを撮影したが、ある一部分だけ 綺麗に割れその以外損傷は認められなかった。そのエンジンが計測地点の直前か直後のいずれで損傷したのかは今もって分かっていない。

競技名 ランドスピードレーシング。
スピードがどれだけ出せるかという競技。単純明快に速さを決める競技はいかにもアメリカらしく面白そうに思えますが反面、スピードが出るため危険な競技で もあります。統括団体はSCTA(Southern California Timing Association)で、El Miragedry lakeとBonneville両方のコースで1年間に約8回ほど競技が行われます。

2010年にバイクショップのオーナーである岩野さんにこの挑戦を打ち明けられ、2011年から2013年の同行取材することになりました。ライダーは以 前取材で知り合った佐伯真吾さん。計画では同じ車種のオートバイのクラスレコードであるタイムを打ち破るために参戦車両を製作し始めました。1000CC の制限の中、1973年式の車両をベースにこの競技専用に仕上げました。ドラッグレースへ出場する車両に近い形になっています。

<著者・撮影者紹介>

古賀庸介(こがようすけ)
1964年埼玉県所沢市生まれ。 東京写真学園卒業。 幼少の頃からハーフサイズのカメラで自動車を撮り歩く。 バイク免許を取り、社会人になるとカメラ持参でサーキットに 通うようになり、偶然知り合いになったライダーのサクセス ストーリーを撮り続けた。デイトナ30度バンクを激走した彼を撮影したイメージが忘れられず、フォトグラファーを目指す。「日々是進化」を身上に、取材範 囲を常に広げていきたいと思っている。