「旅する自転車ロードレース」 Photo 田中苑子

 

ヨーロッパを本場とする自転車ロードレースはちょっと変わったスポーツだと思う。
もちろん伝統あるオリンピック種目であり、ヨーロッパでは絶大な人気を誇る一流のスポーツであるが、他のスポーツと大きく異なるのは、街から街へ移動しながら、1日約200km、屋外の公道を使ってレースが開催されることにある。 現在は競技のグローバル化が進み、世界各国で自転車ロードレースは親しまれ、すべての大陸でプロの国際レースは開催されている。基本的に春から秋がシーズンとなるが、よっぽどの悪条件でないかぎり競技は開催される。つまり選手たちは、異常気象のため雪が舞う春のヨーロッパや、高温多湿で強烈なスコールに見舞われる東南アジアなど、さまざまな気候のなかで競技に打ち込むこととなる。

コースとなる公道もマチマチだ。アップダウンを繰り返す丘陵地帯や、険しい山道、ときには砂利道になることもあるし、中東ではどこまでも続く真っ平らな砂漠のなかで強烈な横風が選手たちを襲う。さらに開催期間が長いと3週間に及ぶため、選手たちにはその土地の食事や文化に馴染むことも要求されるのだ。

なんとも厳しいスポーツだと思うが、その一方で選手や関係者たちはレースとともに、さまざまな場所に行き、いろいろな文化に触れることができる。また私たちはそれを伝えることができる。世界各国同じルールで競技は開催されているため、レースを通してその土地を見つめることで、その特徴がより明確になる。

報道を通した観光ピーアールを期待して、主催者たちはその土地のランドマークをコースに組み込むが、それだけでなく、私たちは、たとえば途上国におけるスラム街を目にしたり、小さな田舎町で初めて外国人に出会う子どもと言葉を交わすことができる。自転車ロードレースのもつそのような側面は“スポーツ”の概念を超えており、いつも私の取材は新鮮な発見で満ちている。過酷なスポーツとしての自転車ロードレースを追うなかで、私は本当に多くのことを教えてもらっている。

<著者・撮影者紹介>

田中苑子(たなかそのこ)

1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌編集部に転職。08年よりフリーランスフォトグラファーに転向し、現在は「ツール・ド・フランス」などのトップレースからアジアの草レースまで、幅広く世界各国の自転車レースを取材。アジアやアフリカの国際レースでは大会公式フォトグラファーを務める。選手やチームへの帯同取材も多く、より広い視野で競技の魅力を伝えるべく活動している。