「日本サッカー、明日へ課題・・意志さえあれば・・」 Text 湯浅 健二 / YUASA KENJI

 AJPS報道展「The BEST」ライター会員作品集

「このままじゃダメだ・・オレ達は、ゼロから再スタートしなけりゃいけない・・サッ カーは勝てばいいってもんじゃない・・内容でも評価されなければいけないんだ・・」 1996年のヨーロッパ選手権を制したドイツ。にもかかわらず、ドイツサッカーの重鎮 が、そう危機感をあらわにした。当時のドイツには、「勝負強いだけのパワーサッカー ・・」という、有り難くないイメージが付きまとっていたのだ。 そこから彼らは、若い選手に、主体的に考え、戦術的に工夫しながら創造力とテクニッ クを磨かせるという基本ベクトルを、忍耐づよく徹底した。 そしてドイツは再生した。他を圧倒する運動量とパス数をベースに、美しさと勝負強 さが高質にバランスする組織サッカーで、再び世界の頂点に立ったのである。その絶 対的ベースは、個人の卓越したテクニックと、強烈な『闘う意志』だった。 それに対して日本代表は、世界とのチカラの差を見せつけられ、惨敗した。 彼らに足りなかったのは何か・・。 イレギュラーするボールを足で扱う不確実なサッカー。その基盤は、フィジカル、テ クニック、戦術、そして心理・精神的な基盤といった様々なファクターだ。 日本は、その全てにおいて劣っていた。私は、「世界トップとの最後の僅差」と表現 する。あるレベルまではスムーズに到達するけれど、そこから最後の壁をクリアする のが難しいのだ。 日本は、テクニックや戦術では、世界標準の域に到達している。ただ、心理・精神的 なファクターについてだけは、生活文化も大きく影響してくるから、難しい。 そう、ドイツが魅せた、積極的に勝負を仕掛けていく「強烈な意志」。不確実なファ クターが満載だからこそ、勇気をもってリスクにもチャレンジしていかなければ進化 など望むべくもないのだ。 W杯の統計数字。たしかに日本は、攻撃を仕掛けていく回数では他国と互角レベルにあ る。でもチャンスメイクの基盤であるペナルティーエリア侵入の頻度では、大きくラ ンクを下げてしまう。 ボールはキープできるけれど、最終勝負を仕掛けていく内容では大きく劣っていると いうわけだ。 そこには、「組織プレーと個人プレーがアンバランス・・」という視点もある。たし かに日本人は、互いに助け合うことで連動する組織(パス)サッカーには秀でている。 ただ、責任の所在が明らかになる「個」の仕掛けでは、まだまだ世界トップから引き 離されているのだ。 だから、組織コンビネーションだけではなく、そこに「個」の勝負ドリブルも駆使す ることで相手守備をねじ伏せ、より可能性の高いチャンスを作り出すという、肝心の 勝負のキモで弱さが露呈する。 日本サッカー界は、「個」を発展させなければならない。選手たちが自ら考え、積極 的に自己主張する「真のサッカー文化」を醸成するのだ。 もちろん私は、誠実で謙虚、思いやり深い日本人の特質を誇りに思っている。6年間の ドイツ留学生活があったからこそ、「外」から、その素晴らしさを体感できた。でも、 暴力的なほどに厳しい闘いが展開されるサッカーの現場では、それがブレーキになっ てしまうケースも多い。 私は、二面性パーソナリティーという表現を使うのだが・・。 一度フィールドに立ったら、日本的なマインドで組織サッカーを加速させるのと同時 に、欧米人にも劣らない、ある意味でエゴイスティックなまでに強烈な自己主張プレー (≒闘う意志に支えられたリスクチャレンジ!)も効果的にミックスしていける。そんな 二面性である。 要は、「個」の意志だ。そのバックボーンを充実させる地道な努力こそが、いまの日 本サッカーが取り組むべき最重要課題なのだと思う。 どの賢人の言葉だったか・・。意志さえあれば、おのずと道が見えてくる・・のであ る。 (北海道新聞)