「今まで日本で見て来たものはいったい何だったんだろう?」それが、初めてメジャーリーグのキャンプ取材に行った際、率直に感じたことだった。 入 学・就職といった「新たな始まり」の季節である日本の春が、人々の心の中に何らかの昂揚をもたらしているのは疑いようもない事実だが、これはあくまで「日 本だけのもの」であって、プロスポーツのシーズンや学校の入学卒業が違うタイミングでやってくる海の向こうには「春の昂揚」なんてないだろうと思ってい た。それだけに、MLBが全30球団のキャンプ〜オープン戦を「Spring Training」と名付け、フロリダ・アリゾナといったリゾート地にチームを集めてキャンプを行う姿は、その抜群に洗練された環境も相まってとてもうら やましく感じた。この季節に魅せられた私はいつしか足繁く通うようになった。気が付くと、13年にもわたって追いかけていたことになる。 この季節は、開幕を迎えるに当たっての最終段階となる準備の時期でもある。夢破れて去って行くものもいれば、そこに新たな光明を見出し光り輝く者もいる。そんな光と影が交錯する季節こそが、この地の「春」なんだと思う。
<著者・撮影者紹介>小城崇史(こじょうたかふみ)
1962 年東京都生まれ。学習院大学経済学部経済学科、および東京綜合写真専門学校卒。広告写真家・早崎治に師事の後独立。雑誌取材でフォーミュラ・ニッポン開幕 戦(1996年4月鈴鹿サーキット)を撮影し、スポーツを写真で表現することに目覚める。1996年から2008年まで13年におよぶMLB取材のほか、 国内外のサッカー、アイスホッケー、フィギュアスケートなど各種スポーツを取材、近年は写真家以外にアサヒカメラ別冊の編集・制作者の顔も持つ。 日本スポーツプレス協会・国際スポーツプレス協会・日本写真家協会・日本写真学会各会員。 学習院生涯学習センター講師。 2016年2月20日 更新