アメリカンフットボールの日本社会人「Xリーグ」で近年アメリカ人選手が増えてきた。NCAAカレッジフットボールで実績を積んだ実力派が、続々と来日している。パワー、スピード、テクニック、なによりアメリカの「国技」を背負っているプライドが、彼らのプレーの随所に現れる。対抗する日本人選手の進歩も著しい。Xリーグの競技水準は飛躍的に向上している。一方で、国内アメフットは、認知度と人気の面では向上どころか、率直に言って後退している感すらある。メディアの露出はほとんど無く、観客は試合によっては2000人にも満たない。彼らのエネルギッシュな姿の背景にガラガラのスタンドが写ることも度々だ。
故・司馬遼太郎さんの短編「侍大将の胸毛」は、織田・豊臣・徳川と覇権が移る時代、自他ともに許す戦国の驍将でありながら、主に恵まれず、働きどころを得なかった渡辺勘兵衛了(さとる)が主人公だ。
勘兵衛は、関ヶ原の戦いの際に、主君・増田長盛から居城の留守番役を命じられる。天下分け目の戦いに出陣できないばかりか、西軍に属した主君は敗将となり、城から逃げ出す家来もいる。勘兵衛は、そんな状況下で襲って来た野盗をさんざんに打ち破り、打ち取った首を晒す。そして「これが俺の関ヶ原よ」と自嘲する。
ノジマ相模原ライズのQBデビン・ガードナー(ミシガン大)のように、大学の本拠地では、毎試合10万人を超す観衆の前でプレーしていた選手もいる。それぞれの大学のヒーローとしてNFLでのプレーを夢見ていたであろう彼らが今、何を考えながら日本でプレーをしているのか、いつも気になっている。アメリカから来たサムライたちが、いずれ引退する時に、晴れ晴れと語れるような「関ヶ原」が日本にもあって欲しい、そう考える今日この頃だ。
<著者・撮影者紹介>小座野容斉(こざの・ようせい) 。1964年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1989年毎日新聞に入社後、写真部のカメラマンとして活動し、春・夏の高校野球、プロ野球、ラグビーなどを撮影。デジタルメディア局に異動後は、ニュースサイトの編集の傍ら、「K-1」などの格闘技、フィギュアスケート、モータースポーツの撮影にも携わる。現在は毎日新聞社知的財産ビジネス室委員。アメリカンフットボールは、89年以来、甲子園ボウルやライスボウルなどを取材してきたが、過去11年は、休日に個人のライフワークとして、社会人「Xリーグ」を中心に年間50試合以上を撮影、雑誌「アメリカンフットボール・マガジン」などに寄稿している。日本スポーツプレス協会会員。