「ブラインドサッカー日本代表が世界へ挑む」Text 飯塚健司

飯塚健司=文/写真提供:日本ブラインドサッカー協会

■渋谷で世界選手権が開催される

11月16日~24日にかけて、渋谷の代々木競技場フットサルコートを舞台にブラインドサッカーの世界選手権が行なわれる。出場するのは12か国。開催国の日本代表はグループリーグでパラグアイ(16日)、モロッコ(18日)、フランス(19日)と対戦する。決勝トーナメントに進出できるのは8チームで、3度目の世界選手権出場となる日本代表は、ベスト4以上の成績という目標を掲げている。

しかし、過去2度の出場は2006年アルゼンチン大会が7位(参加8か国)、2010年英国大会が8位(参加10か国)と苦戦を強いられている。「(日本代表は)世界選手権で勝点3を得たことがまだありません。ですから、まずは得点する。そして勝点3を得る。それを積み重ねて、ベスト4以上という目標を達成したい」と語るのは日本代表でキャプテンを務める落合啓士である。

そもそも、ブラインドサッカーの日本代表がはじめて結成されたのは2002年のこと。日韓W杯の開催を受けて、韓国で視覚障がい者による親善試合が行なわれることになり、それに合わせて選手が募集され、日本代表が結成された。その後、同年に日本視覚障がい者サッカー協会(現日本ブラインドサッカー協会)が設立され、12年を経た現在は国内に約400名の競技人口がいるとされている。また、関東、東北北信越、関西の3地域では定期的にリーグ戦も実施されている。

■忘れられない“仙台の悲劇”

日本代表が戦うおもな国際大会は4つだ。アジア選手権、世界選手権、アジアパラ競技大会、そしてパラリンピックだ。アジア選手権は2005年に第1回が行なわれ、2年に一度開催されている。世界選手権は4年に一度で、今大会で第6回を迎える。パラリンピックの正式競技になったのは2004年アテネ大会からで、2008年北京大会、2012年ロンドン大会を経て、2016年リオ大会でも行なわれる。アジアパラ競技大会は2010年に初開催された新しい大会で、今年10月18日?24日には韓国の仁川で第2回アジアパラ競技大会が行なわれる。

さて、日本代表の実力である。前日のとおり世界選手権では苦戦しているし、アジアを勝ち抜いてパラリンピックに出場したこともまだない。たとえば、2013年に行なわれたアジア選手権(参加3か国)はグループリーグで韓国に2-0で勝利したものの、中国には0-2で敗れている。ふたたび中国と戦った決勝にも0-0からのPK戦で敗れ、2位となっている。2011年アジア選手権(参加4か国)が3位、2009年アジア選手権(参加5か国)が2位だった。この最近の3大会で優勝したのは、いずれも中国である。北京パラリンピックの開催もあり、アジアのなかでは中国が一歩抜き出た存在となっているのだ。「(中国は)スピードがあり、ドリブル力もある。実力がひとつ抜けている」と語るのは落合啓士である。

ちなみに、2011年アジア選手権はロンドン・パラリンピックの予選を兼ねていた。出場枠は2つで、日本代表はグループリーグ2戦を終えて1勝1分けで2位となっていた。3戦目に引き分ければ出場権を得られる状況で、対戦相手はイランだった。25分ハーフの前半を終えて0-0で、そのまま試合を終えれば初の出場権を得ることができた。ところが、後半に2失点して0-2で敗れてしまった。落合啓士はこのイラン戦について、「あと20分程度を守ることができていれば……という本当に悔しい試合でした。私のなかでは“仙台の悲劇”として忘れられない一戦です」と振り返る。 現状、アジアのなかでは中国の実力が抜けていて、日本、イラン、韓国がその後に続いている。2016年リオ・パラリンピックに出場できるのは、アジアから2か国だ。来年5月ごろに予選が行なわれる予定(詳細は未定)で、それまでにいかにチーム力を高められるかに出場権獲得の有無がかかっている。たしかな自信を得てこの予選に臨むためにも、11月の世界選手権でなんらかの手応えを得たいところだ。

■フランス遠征での収穫&課題

日本代表の強化は確実に進んでいる。9月上旬にはフランス遠征を行ない、2010年世界選手権5位のフランス(△0-0)、同2位のスペイン(●0-3)、同7位のアルゼンチン(●0-1)という世界トップレベルの強豪国と戦うことができた。結果は1分け2敗だったが、「いずれも崩された失点ではなかった。守りに入ったときは、守れるという手応えを得られた」(落合啓士)と語るとおり、守備に関しては収穫を得ている。

一方で、無得点に終わった攻撃に関しては課題が残されている。決して、チャンスがなかったわけではない。シュートがゴールの枠内に飛ばない。GKの正面を突くなどして、どうしても得点できなかったのである。そう、日本サッカー界が抱える課題そのものを、ブラインドサッカー界も抱えているのである。

ここまで読むことでブラインドサッカーとはいったいどんな競技なのか、ルールはどうなっているんだと疑問を持たれた方もいるはずだ。少しでも興味を持たれた方は、まずは以下の日本ブラインドサッカー協会のHPを覗いてみてほしい。日本独自の特徴的なルールをひとつ紹介すると、チーム内に健常者を加えることができるというものがある(4名のフィールドプレイヤーのなかに2名)。ブラインドサッカーには、健常者と視覚障がい者が一緒にプレイできるという魅力があるのだ。

また、「障がい者が行なうレクリエーションではなく、ひとつのスポーツとして見てほしい。選手たちをアスリートとして見てほしい」と語るのは落合啓士で、ドリブルのスピード、シュートの勢い、激しいボディコンタクトなど、随所に見どころがあるスポーツだ。かつて、ブラインドサッカーを「芝の上のもうひとつの格闘技だ」と評したのは、釜本邦茂氏である。11月16日?24日にかけて渋谷で行なわれる世界選手権では、日々身体を鍛え、技術を磨いているアスリートたちの真剣勝負を間近に見ることができる。観戦可能な方は、一度会場を訪れてみてはどうだろうか。

【日本ブラインドサッカー協会HP】 http://www.b-soccer.jp/

<著者紹介> 飯塚健司(いいづかけんじ) 1970年広島県生まれ、埼玉県育ち。聖学院大学卒。 サッカーどころで生まれ育ち、小さいころからサッカーが生活の一部に。 1993年に『週刊サッカーダイジェスト』を刊行する日本スポーツ企画出版社に入社。Jクラブ、日本代表の番記者を経て2000年に独立。以降、サッカーを取り巻くあらゆる事象を取材し、サッカー専門誌、スポーツ誌、一般誌、新聞、ウェブなど各種メディアに記事を提供している。