「女子バスケはなぜ3大会ぶりの五輪出場を勝ち取れたのか」 Text 小永吉陽子

■世界選手権6位の中国に圧勝

アジア2連覇を達成するとともに、リオへと続くオリンピックロードを鮮やかに駆け抜けた。

9月上旬、女子バスケットボールのリオ五輪予選を兼ねたアジア選手権が中国・武漢にて開催され、日本は決勝で中国を85-50の大差で下して3大会ぶりとなるオリンピック出場権を獲得した。日本がアジアを制覇して五輪切符を得たのは初のこと。今大会は選手層からいって日本と中国の一騎打ちになることは予想されていたが、「まさか決勝でここまで大差がつくとは」(内海知秀ヘッドコーチ)という予想外の出来だった。

なぜ、日本は圧勝できたのだろうか。

大会前、下馬評が高かったのは昨年の世界選手権で6位へと躍進した中国だ。中国は“オリンピック請負人”の異名を持つオーストラリア人の名将、トム・マーが指揮官就任3年目で世代交代を成功させ、平均身長186?の高さと若い才能を成長させていた。世界選手権では伸び盛りの若手がチャレンジャー精神で向かっていくことで、そのポテンシャルが開花した。

一方、日本は世界選手権では3連敗を喫して予選ラウンド敗退。司令塔の吉田亜沙美(27歳、165?)が膝を負傷してメンバーから外れていたとはいえ、アジアナンバーワンを誇る脚力が世界の高さの前に封じられてしまった。

■ディフェンスと走力の勝利

世界選手権後の日本は戦い方を見直し、強みである走力を前面に推し進める方針に変えた。それが、内海ヘッドコーチが掲げた「勢いとトランジション(攻防の切り替えの速さ)」のチーム作りだ。Wリーグで躍進した本川紗奈生(23歳、176?)、ユニバーシアードでベスト4の原動力となった篠崎澪(24歳、167?)ら、走力ある若手を加えてチームカラーを色濃く出したことで、日本の脚力はより一層のターボエンジンを搭載した形となったのだ。

そこに今シーズンから世界最高峰リーグのWNBA(アメリカ女子プロバスケットボールリーグ)に参戦している192?の渡嘉敷来夢(24歳)が最後のワンピースとしてはまった。渡嘉敷はシーズン中のために大会直前に代表チームに合流。大会序盤は噛み合わずに我慢の連続だったが、「WNBAで高さのある選手とマッチアップすることで手応えをつかんだ」というディフェンスで貢献し、徐々にチームにフィットしていった。

今大会の勝因は、渡嘉敷に象徴されるように、ディフェンス力にあった。35点差をつける要因となった速攻の数々は、プレッシャーディフェンスをかけて相手のミスを誘ったからこそ出たもの。ポテンシャルは高いが国際経験の浅い中国にフラストレーションを溜めさせて自滅させ、高さで主導権を握らせなかったことに尽きる。そのディフェンスの要となったのが、前線からプレッシャーをかけ続けた吉田と、高さある選手を1対1で抑えた渡嘉敷。日本の大黒柱である二人が支えたことが、何よりの強みだった。

しかしそれでも、35点差とはずいぶんと差がついたものだ。ホームコートの中国を戦意喪失させるほどのディフェンス力と、オールコートを駆け抜ける走力を身につけたことは自信を持っていい。準決勝までは渡嘉敷を入れてチーム力を融合させる“我慢の展開”だったが、その苦しみを乗り越えたあとに待ち受けていた“爆発”が35点差となってアウェイのコートを支配したのだから。

■資格停止処分を乗り越えて生まれた“自覚”

世界とアジアではレベルが違うとはいえ、世界選手権での惨敗から何が変わったのだろうか。この1年、日本は大きな変化を遂げていた。それは、各自の自覚が備わったことだろう。このオリンピック予選、日本は絶対に負けられなかった。

FIBA(国際バスケットボール連盟)から日本協会の統治力の欠如を指摘され、資格停止処分を受けたのが昨年11月末。資格停止処分とは国際大会に出場できないことを意味する。日本協会の統治力のなさは、10年間も解決できなかった男子のトップリーグ分裂問題として現れていたが、女子に関して言えば「とばっちりを受けた」という表現を、改革に当たった川淵三郎氏は口にし、“プレイヤーズファースト”を掲げてエールを送っていた。

しかし、女子も当事者なのである。制裁という事態に陥っても、バスケ界で何が起きているかに関心を持たず、どこか他人事で「選手はコートで頑張るだけ」という決まり文句を発していたのが女子だった。競技人口は多いのに観客は増えず、実力では世界に通用しない。いつまでたってもマイナースポーツから抜け出せないことは、男女に関わらず、2020年に東京オリンピックを迎えるホスト国として、バスケットボールに携わる者全員が考えなくてはならない問題だった。

「制裁解除を信じていましたが、そのために、たくさんの方がバスケット界を改革するために動いていることを知り、感謝の気持ちでいっぱいでした」とキャプテンの吉田は国際試合ができるありがみを口にするようになった。また自身は左ヒザの靭帯断裂という大ケガを乗り越えたことで、コートに立てる喜びをかみしめて若手を牽引していた。渡嘉敷はWNBAのコートに立つことで「たった3ヶ月だけど、WNBAでの経験した当たりの強さは出せた。それがWNBAに行った者の役割」だと日本を背負って立つ自覚が芽生えていた。

■Wリーグでのレベルアップがリオ五輪の躍進に繋がる

脚力と自覚が備わった日本は、今後、さらなる高みを目指してチャレンジをする。

来年のリオ五輪。世界の強豪がそろう舞台ではそう簡単には走らせてはもらえないだろう。だが日本は走力を全面に押し出して勝負をする。「まだ伸びしろのあるチーム」(内海ヘッドコーチ)の勢いを止めてはならないからだ。持ち味を出したうえで、さらに今度はハーフコートでの組み立てや組織力で攻める課題に取り組まなければならない。それは秋から始まるWリーグで、「活躍すればリオ五輪選手」という選手間の競争のもと、レベルアップしていくことに期待したい。

<著者紹介>

小永吉陽子(こながよしようこ)

月刊バスケットボール編集部、月刊HOOP編集部を経て、フリーランスのスポーツライターとなる。バスケットボールをフィールドとして、取材、執筆、撮影、編集まで手掛ける。近年研究しているテーマはアジアのバスケットボール。