「日本代表に『日本らしさ』を見た」 Text 飯塚健司/ IIZUKA KENJI

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日本代表は、文字どおり日本代表である。ザッケローニ監督に率いられてブラジルW杯に挑んだ日本代表は、日本サッカー界を代表して戦った。いや、サッカーの代表チームがその国の特色をよく表わしているとするなら、サッカー界だけではなく、日本という国を代表して戦ったことになる。そう考えると、1分2敗という結果は決して彼らだけが喫したわけではない。

自分たちのスタイルを信じ、4年間を費やして築き上げてきたサッカーを、もっとも大事な舞台、集大成となるはずだったW杯で披露できなかった。アルベルト・ザッケローニ監督は4年前に戻って強化方法の何かを変えるなら、「戦術や選手選考はもう一度同じようにやる。適切な選手を選び、濃密なときを過ごしてきた。ただ、もし戻れるなら精神面のアプローチを変える。心の準備を変える。今回の経験を踏まえて、心の準備の仕方を変える」とコロンビア戦後に語っている。

■技術力、戦術、精神力のバランスが崩れていた

大事な場面で力を発揮できない──。なんとも日本らしいなと感じる。これまで日本代表の試合を見てきた方なら、今大会のパフォーマンスに違和感を覚えないはずがない。もっとできたのでは? こんなものだった? という疑問が浮かぶのではないだろうか。実力差の違いと言ってしまえばそれまで。しかし、真の実力を出させてもらえないほど、3か国と力の差があったのか。少なくとも、「(日本代表が)もっとできることを知っている」と語ったザッケローニ監督は、1分2敗という結果を素直に受け入れられていない。

なぜ、このような戦いをしてしまったか。なぜ、精神面へのアプローチを変えたいと語ったのか。今大会を通じて、日本サッカー界はザッケローニ監督に大きな悩みを与えてしまったようである。コロンビア戦後に、力を発揮できなかったのは精神面に問題があったのかと問われたザッケローニ監督は、「(精神面への)アプローチが間違っていたとしたなら、こうなってしまった理由を説明できない。私にとっては、最後まで謎になると思う」という言葉を残している。

選手たちもまた、本来のパフォーマンスを発揮できなかったことを悔いている。キャプテンの長谷部誠はコロンビア戦を終えて、「(日本のサッカーを)今日の試合では少しは見せられたけど、大会を通して考えると非常に残念な結果だった」と語っている。技術力や戦術面をいかに高めても、実際にピッチで戦う選手たちが試合において真の力を表現するだけの強い精神力を持っていなければ、チームはうまく機能しない。

技術力、戦術、精神力。サッカーにおいてもっとも大切なのは、いったいどの要素なのか。昔から事あるごとにサッカー関係者に質問してきたが、人によって答えが違う。技術力があれば戦術がスムーズに機能するし、精神面も冷静さを保ってプレイできる。戦術がしっかりしていれば、心によりどころがあることで精神面に混乱をきたすことなく、技術力もいかんなく発揮できる。技術力や戦術をうまく稼働させるには、精神面が整っていないといけない。どんなに高い技術力、高度な戦術があっても、精神面に問題があるとうまく機能しない。どれも筋が通っていて、納得できる。結論としては、どの要素も欠けていてはダメ。バランスよく備えておかなければいけないのだ。

■3試合すべてで力を発揮できなかった

今大会の日本代表は、技術力、戦術、精神力のバランスが崩れていた。そのため、各試合で次々に問題が露呈した。たとえばコートジボワール戦である。立ち上がりから積極的に仕掛けたものの、試合が進むに連れて対戦相手との実力差を感じ、プレッシャーに圧されていった……という試合ではなかった。W杯という舞台に飲まれたのか、最初から動きが堅く、守勢に回っていた。数少ないチャンスを生かして先制点こそ奪ったが、本来やるべきサッカーはできていなかった。試合後、「(W杯という舞台でも)自分たちのサッカーを表現する準備ができていると思っていた。表現できなかったのは、まだまだ未熟だということ」と語ったのは長谷部である。

続くギリシャ戦では数的有利になり、多くのチャンスを作りながらも最後まで得点できなかった。元オーストラリア代表監督であり、97年から2000年までサンフレッチェ広島で監督を務めたエディ・トムソンに日本サッカーのウィークポイントをかつて質問したとき、「攻守両面でゴール前になると慌てることだ。サッカーにおいてもっとも大事なところで冷静さを失ってしまう」と98年当時に語っていた。この言葉を聞いてからもう16年が経っている。だいぶ改善されてはいるが、ゴール前で冷静なプレイができないのはもはや日本人選手の特徴のひとつだといえる。ギリシャ戦後に岡崎慎司は「(W杯という舞台で) 決められる選手はすごい。決められなかったのは未熟だから」と語り、大迫勇也は「(攻撃陣が)決めるかどうかという試合だった。すごく責任を感じている」と言葉を残している。

そして、コロンビア戦である。この試合ではゴール前の弱さとともに、ひとつのことを重視すると、その他のこととのバランスが取れないという弱さが出た。勝利が必要だったため、1点でも多く点を取ろうという意気込みで臨んだ試合だった。実際に多くのチャンスを作り、ポゼッション、シュート数、決定機ともに相手を上回っている。ただ、決定機を逃し、カウンターを受け、次々に失点を重ねてしまった。攻撃的に戦うという意識が強過ぎて、これまで作り上げてきた全員攻撃・全員守備の根本が失われてしまっていた。

選手間に距離があり、ボールを奪われたあとに素早くまわりがフォローする動きが見られなかった。「チームとしては、全員で攻撃し、全員で守るというコンセプトがあった。ボールを奪われたら、みんなで取り戻す。この4年間、この考えをもとにプレイしてきた」とはザッケローニ監督である。ところが、コロンビア戦では全員攻撃・全員守備を可能とする連動性が失われ、リスクを犯して攻撃を仕掛ける場面が目立った。

■1人ひとりが自分を磨くことが、日本代表の強化につながる

コロンビア戦を終えた選手たちは、総じて「悔しい」という言葉を口にしていた。「力不足と言えばそれまでだけど、力不足としか言えない。悔しさしかない」とは岡崎であり、「また一からこの悔しさを生かすしかない。自分にはサッカーしかないし、自分らしくやっていくしかない」と語ったのは本田圭佑である。全力を出し切っての敗戦ならば、これほど悔しさは感じないだろう。むしろ、全力さえも出せなかった。出させてもらえなかった。それほど、今大会は厳しい戦いを強いられた。自分たちで問題を抱えているなか、質の高い相手に勝てるほど甘くはない。これこそがW杯であり、出場しないと味わえないシビアな世界である。

そして、選手たちがあまりにも「悔しい」とはっきり口にするので、以前に聞いたあるひとつの言葉を思い出してしまった。どこで聞いたか、誰が言っていたか失念したが、こんな内容だったと思う。「悔しかったら、自分を磨け。腹が立ったら、自分と向き合え」。受け入れがたい結果を人の責任にしていたら、成長する機会を失ってしまう。思い通りにいかなかったと他人に腹を立てても、状況は何も変わらない。それよりも、悔しさを晴らすために新たに行動することが己の成長につながる。腹が立つということは、思い通りにならなかった何かがあるということ。その問題を解消するためには、しっかりと自分と向き合わなければならない。その先に、やはり己の成長があるという意味である。

日本代表というのは、日本という国を移す鏡だと理解している。特別な場所・環境で生まれ、純粋培養されて育った選手たちがユニフォームを着ているわけではない。ともに遊び、ともに机を並べて学習し、喜び、悲しみを分かち合ってきた知り合いが、晴れてW杯に挑んだのである。日常を平々凡々と過ごしている身としては、彼らが真剣に取り組んできた日々を否定することは到底できない。1分2敗という結果が出ても、彼らが歩んできた道を否定しようとは決して思わない。もちろん、無気力で日々を過ごしてきた人物がいるとしたら、それは許されるわけではない。しかし、多くの人々が真剣に関わり、方向性を導き出し、取り組んできたのが実際である。

ならば、むしろ同じ方向性を突き進めてほしい。「悔しい」と感じた気持ちを忘れずに、全員がより己を磨いていってほしい。日本人選手が持つ特性を生かすこれまで目指してきたサッカーは、方向性として決して間違っていない。今大会は技術力、戦術、精神力のバランスが崩れたため、結果を残すことができなかった。だからといって、フルモデルチェンジするのではなく、今回得た教訓を踏まえて、マイナーチェンジすればいい。幸い、本田は強い意志を持っているようである。コロンビア戦を終えて、「いまのサッカーで勝たないと、見ている人は魅了されないと思う。ただ、勝っていないので『何を言ってるんだ』という話しになってくる。だけど、このスタンスでいくことが個々の成長につながると思う」と語っている。

最後にひとつ。前述したとおり、日本代表の選手たちは特別な場所・環境で生まれ、将来が約束されて育つわけではない。普段ともに生活していたあの人が、よく知っているあの人が、日々の練習に打ち込み、成長を続けた結果、日本代表としてW杯に挑んだのである。そう考えると、日本代表がW杯で臆することなくやりたいサッカーを披露し、なおかつ好成績を収めるためにはどうしたらいいか。おのずとその答えが見えてくる。われわれにも、できることがある。決して、1人ひとりが無関係ではない。今大会の結果を、「自分も悔しい」と感じた人がいたなら、選手とともにこれから自分を磨くことに努めてみてはどうだろうか。そんなあなたのまわりから、将来の日本代表が生まれるかもしれない。

(初出:the WORLD 2014年6月29日)